変更点
勝利してなお士気は低い。
攻略組という集団は、少なからずみんなに喜ばれるために戦っている。
なるべく多くの人が生還するために命をかけてるのだ。
それがこんな形でそのことを否定されるという状況に直面した今、悲しい気持ちになるのは仕方のないことだった。
シエラ自身も少なからずそういうダメージを受けている。
気弱そうな男ことリックはずっとシエラの支援をしてきてくれた奴らしい。
それが、人の手で殺されたことは何をもって怒りの捌け口にすればいいのかわからないのだろう。
一度戻るべきじゃないかという考えもみんなの中にでてきているように感じる。
「最終層まで後一歩だし頑張ろうぜ?」
そう言って声をかけてまわって見た。
だが反応は薄い。
「50で最終って噂だろ…。信憑性がまったくないんだよ。」
「一度立て直さないと勝てないだろ…。」
そんな言葉が帰ってくる。
姉さんの顔色も良くない。
そして、それに追い討ちをかけるように塔全体に響く告知があった。
システムメッセージです。
敵、獣人軍による都市進行クエストが開始されました。
進行目標はミーミル。
進行予定は三日後。
ダイバーの皆様は都市防衛にご協力ください。
「おい!そんな話きいてないぞ!」
「急すぎるだろ!作った側だからって何でもありじゃねぇぞ!」
そう文句を言いながらも帰還の準備をする。
喜ばれない攻略進行よりも、みんなに感謝される防衛に向かうために。
そして、俺達にそれを止める権利はない。
だから、
「ミーミルのこと頼みます。」
と言った。
俺は一人でも50層に挑まなければならない。
だって、目の前なのだから。
シュラウドにも言った。
俺は俺のわがままとしてこのゲームを終わらせ現実に帰還したいんだ。
そのわがままを通すために相容れない人を殺したのだ。
だからこそ、揺るげぬ想いがある。
「ちょっと待ってよ!死ににいくようなものじゃない!」
落ち込んでいたシエラもそんなことを忘れたように狼狽している。
「シエラ。ルリとリルのこと頼むな。」
相手の手を無理矢理握る。
そして、願いを伝えるようにぎゅっと握った。
「私は置いて行っちゃだめ。」
空いてる左手をぎゅっとイオが握ってきた。
「ああ。一緒に頼む。」
「それなら私も行くわ。かなただけじゃ不安だから。」
「じゃ仕方ないから僕も付き合うよ。」
姉さんとヴェルもついてくるという。
「私もこの世界を終わらせたいです。現実に戻ってからの約束があるんです。」
ファランまでも参加を望んでいる。
レオはどちらにするべきか悩んでいる。
三日というのはかなりのハイペースで降りてやっと間に合うペースだ。
ヴェルは50層までと断定するように言っていたが、実際はわからない。
それに負ける可能性も十分だ。
「レオ。まずはリンカを守ってくれ。」
「…はい。」
こうして、俺とイオ、ヴェルと姉さん、ファランを除くメンバー全員がミーミルに戻ることになった。
急なシステムの追加。
これは不自然なことだと思う。
俺の知る限りでは、こういった後付け的な都合あわせを井形という人間は嫌ったはずだ。
しかし、それはメディアで見る彼であって本当の彼を知るわけではない。
だから、特に意味はないのかもしれない。
ただ、俺は何かしらの特別な意味を感じている。