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ラストライフ・オンライン  作者: 蜜柑
ぶつけ合う望み
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生き方の違いの行きつく先

「なあ。もう終わりにしないか?」


 既に二勝しているため、俺達の勝利は確定している、

 3戦目など意味が無い。

 ただ、きっと終わりにするという返事をしないであろうことはわかっていた。


「俺がお前を殺せば攻略に大きなダメージを与えられると思うんだが?」

「買いかぶりだろ。」

「抜かせ!どっちにしたってやるんだよ!」


ーーー。


 敵は短剣使いのシュラウド。

 口の上まで仮面をかぶり顔を隠している。

 さらにフードをかぶり、全体を黒で染め、まさに漆黒といった感じだ。

 得意とする短剣は、毒が仕込まれている。

 ファランに治療してもらって今は万全だが、その毒は身を持って体験している。

 足をしびれさせて動きを封じるスロウ系の毒だ。


 それに対して、俺はさっきの戦いで片手剣一本のみを使っていたため情報量が少なく有利だ。

 さらに、俺には秘密兵器というか秘密のクラス:マルチマスターにクラスチェンジしている。

 と言っても、色んな武器がまあまあ使えるという器用貧乏なクラスだ。

 特殊スキルは特にない。

 みんなに秘密にしているのは男のロマンだ。


「さてと、始めるか。」

 月光を背中から抜き放ち両手に構える。


「行くぞ!」

 互いに敵に向かって走り出す。

 敵の方は姿勢が低く、地をすべるように走ってくる。

 その両手は背にまわされよく見えない。


「攻撃いくぞ!」

 敵の親切な攻撃のコールが聞こえる。


 そのコールの後、本当に右腕を背中から振り回すように振ってきた。

 それをしゃがんでよける。

 敵の下から上へ巻き上げるような攻撃に反射的にそう避けてしまった。


 だが、その右手には短剣がつかまれていなかった。

 そう気づいた直後、左手が同じように背から振り回されるように伸びてくる。

 その手にこそ短剣が握られている。

 

 想定していなかった攻撃に反応が遅れ、なんとか右手の月光で打ち返そうとするも間に合わず、右腕に敵の刃がかすってしまった。


 足に少しのしびれを感じる。

 しかし、動きに影響がでるほどではない。


 敵自体は、一回の攻撃のあと、再び大きく距離をとった。


「やるじゃないか。」

「そりゃどうも。」

 皮肉の言い方とかポイントとか、他のところであってたら気があったんじゃないかと思う。

 こういう会い方をしたからには行きつく先までいくしかないが。


「いくぞ!」

 再び突撃しあう。

 さっきと同じ低い姿勢で背に両腕を隠している。


 互いの射程に入るまで手は出さない。

 厳密には俺のリーチの方が長く、先に射程に入るわけだが、回避して反撃というスタイルの俺からすれば後手を取る事が大事だ。


 そして、敵の射程に入った途端、右腕が背から放たれた。

 その手には短剣が…ある!

 これを大きく回避した。

 

 そして、反撃に右手の月光を振りかぶる。

 相手も苦し紛れの左手を放とうとしているが、何も持たない殴りなど対したダメージではない。

 このまま月光を腹に叩きこむだけだ。


 だが、俺は敵の左手の先にキラリと光を反射するものを見てしまった。

 短剣は2本あったのか!

 今更回避は間に合わない。

 そう判断した俺は勢いを殺さず肩からタックルをしかけた。

 その肩に短剣が刺さる。

 しかし、タックルを受けたシュラウドもまた後方に吹きとばされた。

 だが、それはいいことではない。


 距離があいて、俺の足は完全にスロウ状態になっている。


「痛かったな…。」

 そう言いながら左手に大量の投げナイフを取り出す。


「そっちは大丈夫か?」

「心配されるまでもねぇよ。」


「そうかそうか。それでは、仕返しのダーツタイムだ。」

 右手に5本の投げナイフを構える。

 

 それに対して、俺は左手に小さめの槍を、右手に月光を構えた。

 そして、投げナイフを叩き落とすことが狙いのふりをする。


「何回耐えられるか見物だ。」

 得意武器に銃もあるが、不意打ちこそ有効だろう。


 投げられた5本のナイフのうち、外れるコースをたどっているのが1本。

 急所に飛んできているものは月光で撃ち落とす。

 そして、左手の槍は、撃ち落とすためのモーションのふりをして敵に投げつけた。


 その不意を狙った攻撃は見事、右肩を捕らえた。

 その槍は返しがついていて抜けにくくなっている。

 右腕の動きを阻害する効果が高いのだ。


 ここぞとばかりに両手にホワイト・パールとブラック・バートを構え、照準する。


「降参しないか?」

「ふざけろ!」

 遠距離戦の不利を知ったシュラウドは突撃をしかけてきた。

 だが、その走りもさっきの速さはない。

 槍を肩につけて走るのがそんなたやすいものであるはずがないのだ。


 俺は足に向けて氷弾を連射した。

 必死で避けようとするがバランスが普段通りでない状態では全部を避けることは叶わなかった。

 ぎりぎり短剣の射程外で、氷で足を地に結ばれた。


「降参しないか?」

 銃を鞄に収納してから確認する。


 しかし、何も返事はない。

 正直に言えばこいつほどゲームを楽しんでた奴はそういないのだろう。

 この世界を生きているのだ。

 だからこそ、譲れないところだろう。

 そんな奴を降参させるためには…どうすればいい。

 

 そんな思考を開始した。

 だから、油断を突かれたのだ。


「かなた!」

 イオの呼ぶ声がする。

 何かあったのか?そう思ってイオの方を見た。

 その顔は俺の前方を見て驚愕している。


 俺も急いでそっちをみた。

 その時には敵の仮面の顔が俺の顔の直前にあった。

 そして、血のついた短剣…。


 シュラウドは自分の足をその短剣で切断していた。

 そして、そのまま倒れるように俺の方に突撃してきたのだ。


 俺には選択できるものがなかった。

 物質化して背に吊っている月光を握るしか。

 

 倒れこみながら迫ってくる短剣を俺自身後ろに倒れながら回避し、月光を斬り上げる。

 その月光が伝える感触は、今まで敵を倒してきた感覚とは別物の、まさに人の肉を斬る感触だった。


「たのし…かった…ぜ。」

 そう言ってからシュラウドは二度と音を立てなくなった。


 終わったのだ。

 俺達は主義主張をぶつけ合って、殺しあって強い方が正義という言葉を体現した。


 俺の右手は殺人を犯した…。



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