恨んで殺しあって
「ごめん。みんな。勝手に話進めちゃって。」
攻略組全員に謝った。
全員の安全のためとは言え勝手に話を進めてしまったことを。
負けてしまえば現実帰還が難しくなるというのに。
「これ以上被害がでたら50層のボス戦が無理になるから仕方ない。」
こういう時に攻略組代表としてのシエラの言葉は助かる。
代表のメンバーに関しても同意を得られた。
結果、初戦はシエラと格闘を使うであろう女の戦いになる。
リーチと速さでシエラが格闘の範囲内に近づかれることはないだろう。
勝利は確実だ。
「おい。確認しておくが、俺達が勝ったらおまえたちは二度と塔に立ち入ることを禁止だ。おまえたちが勝ったら俺達は二度と邪魔しない。そういうことでいいな?」
シュラウドと名乗った短剣使いが言う。
「わかった。そっちが言ったからにはその約束違えるなよ。」
ーーー。
「じゃ、始めましょうか。」
シエラと敵の女が向かい合う。
「強きな女ね。その声を悲鳴に変えてあげるわ。」
あんたもなかなか強気な女ですよ…。
スタートの合図など無く敵がタックルを仕掛けてきた。
「ちょっと卑怯じゃないの。」
とシエラはいいつつも予測していたのか余裕を持って回避した。
そして、勢い余って飛び出して行った敵の背中を蹴り倒す。
なんつーか、相性的にも技術的にも有利すぎていじめになるんじゃないかと不安だ。
「諦めたらいつでも降参していいからね。」
そんな言葉をかけるぐらいの余裕がある。
「ふざけるな!」
左手でジャブを連発しながら接近をしかける。
シエラはそれを全て回避している。
敵が弱いわけじゃないとは思う。
あの連発はなかなかの弾幕になっているはずだ。
しかし、挑発に頭の中が冷静でいられなくなっている敵はわかりやすい回避のフェイントに向けて狙いをつけてしまっている。
「冷静になれ!」
とシュラウドが言っても止まることを知らない。
「そういう女だからな…。」
と結局諦めた。
だが、シエラも近づけないようにしようと思えば十分できるはずだ。
わざわざジャブの届く範囲で戦うのは余裕を見せすぎなんじゃないか。
要するにこっちも遊び癖という悪い癖が完全に出てしまっているわけだ。
遊ぶなと声をかけてもあっちとおなじオチだろう。
「ほらほら!一発ぐらいあててごらんなさい…よっ!」
腹に蹴りを叩きこむ。
突進しながらの攻撃に対するカウンターは敵の身体をくの字に曲げた。
「まだ、リックの痛みの1割だって返してないんだよ?」
そう言うシエラはさらに蹴りを叩きこみ、顎に向けて鞘で打ち上げる攻撃を叩きこんだ。
遊んでいるわけではなく怒っているのか…。
顎に叩きこまれた攻撃に女の膝が少しだけぐらついた。
…撃たれ強いな…。
あんだけ蹴られて最初の勢いで倒れたようなのから一度も倒れていないのだ。
「ほら!みんなはなんて命乞いしたの!それでも殺したんでしょ!」
さらに蹴りは加速していく。
そして、シエラは怒りを増幅させるようにさらに蹴りこむ。
さっき話した時は落ち着いているようだった。
だが、その心の中では悲しみに苦しんでいたのだ。
それをぶつける相手を見つけてしまった…。
だが、それはシエラの冷静さも奪っていた。
倒れない敵へのいらだちか腹に向けてもう一度蹴りを叩きこんだとき。
「この大振りを待ってたのよ!」
蹴りこんだ右足がつかまれた。
そして、押し倒される。
パキッ。
骨の折れる乾いた音が響いた。
「右足いただき!」
そして、そのまま腕にからみつく。
「次は左腕いただき!」
どうみたってまずい!
クラスは打撃系じゃない。
サブミッション系だ。
「こんなもの!」
「やめろ!」
俺は叫んだ。
無理矢理とけば逆効果になる危険な技なのだ。
しかし、叫んだときには遅かった。
関節の外れた音がした。
確かに離れることはできた。
その代償に左腕はだらりと肩から力無くぶら下がっている。
それでも、シエラは左足で体重を支え、右手で腰に吊り下げた刀を握る。
「次はどこがいいの?気持ちよく絞め殺してあげようか?」
そんな挑発にも黙り込んでいる。
「しゃべらなくなっちゃってかわいいわね!」
再びタックルをしかけてくる。
敵の右腕がシエラの左足を狙う。
回避ができる状態ではない。
だが、敵の右腕は左足を捕らえることはなかった。
なぜなら…。
「私の腕が!」
と言うとおり両腕を刀で切り飛ばしている。
「次は足?首?」
さっき敵が聞いてきたように聞き返す。
「降参するから!」
もう敵の戦意がないのはわかる。
「こっちは降参してもやめるきないんでしょ?死ねばいいじゃない。」
再び刀を握る手に力が伝わっていく。
「やめてくれ!俺はそんなシエラを見たくない!」
俺は冷静な頭と切り離し、勝手に動く身体のしたいようにさせた。
そして、シエラの右腕を握っていた。
「もう勝ちだ。十分だよ。シエラ。」
そして、シエラの身体から力が抜けた。
「ちょっと疲れちゃった…。」
人と人とで恨んで殺しあわないといけない状況に彼女の心はずっと悲鳴をあげていたのかもしれない。