牙をむくのは人
「ちょっと!これ魔法じゃないの!?」
シエラがそう言いながら扉の方に走って戻っていく。
「ちょっと待て!あんまり近づいちゃだめ。」
そんな姉さんの言葉を無視して、結界に蹴りを叩きこんだ。
バチッ!
と衝撃が走り、シエラを吹き飛ばす。
「シエラさん!」
吹き飛んだシエラのもとに攻略組としては珍しい気弱そうな男が走りよっていく。
しかし、人為的な魔法による結界だとすれば…。
「気を抜くな!」
全員に注意を促す。
「誰かいるはずだぞ!」
そう、俺達を狙っているやつが。
そして、最初に狙われたのはそのシエラに近づく気弱なやつだった。
明らかに周りに対する注意がむいてない。
「おい!おまえ!油断するな!」
その瞬間、そいつの背中に刃が突き刺さっていた。
「え?」
そんな自分の現状を理解できないような声を出して、前に倒れこんだ。
しかし、それを行ったはずのやつがいない。
ありえない。
だから、考えられるのは…。
「ハインディングスキルだ!暗殺にきをつけろ!」
それも姿が消えるなんて相当な上級ハインディングスキルだ。
そして、背中側からの攻撃で一撃死をもたらす暗殺。
この組み合わせは危険すぎる。
しかし、きをつけろって言ったって敵が見えないんじゃどうしようもない。
「ぐっ…。」
攻略組の大男さえ一撃で死んだ…。
次々に倒れていく。
次は俺の番かもしれない。
そんな恐怖にのみこまれた連中が扉に殺到するが、結界にはじかれるばかりだ。
「次はおまえの番だぞ。」
背中側のすぐ近くから低い声が聞こえた。
狙ってくるのは背中。
それを回転で交わし腕で受けた。
痛みは走るが背中でなければダメージは小さいのだから。
「ほう。やるな。」
一瞬見えたような姿が再び消える。
だが、姿が消えたところでそこにいることに間違いはない。
いるであろう場所に向けて剣を振り回す。
しかし、俺の剣が敵を捕らえることはなかった。
「なんのつもりなの!こんなことして!」
シエラが叫ぶ。
「なんのつもりも何も。ゲームの正しい遊び方がわかんない連中に罰則を与えてやってるだけさ。」
再び低い声が聞こえた。
「ゲームを壊そうとする連中がいる。それを裁く運営がないなら、俺達一般ダイバーが罰を与えるしかないだろ?」
つまり、俺達がもうすぐこのゲームを終わらそうとしてるから許せないということだ。
そういう連中がいるだろうとは思ったが、まさか行動してくるとはな…。
その気持ちが間違ってるとは俺には言い切れない。
だから
「俺はこの世界を出たい!だから、俺のわがままとしておまえらを倒させてもらうぞ!」
「ほう。望むところだ。それぐらい威勢がないとな。最初にきた奴らは悲鳴をあげるだけで何もせずに死んでいったぞ。」
「リックとルート組の仇とらせてもらうわ!」
シエラが剣を構える。
俺にとって初めての本当に命がけの人と人との殺し合いが始まった…。