急転して今
休みの三日目。
俺はファランの部屋で肩を揉んでいた。
「やっぱり慣れた部屋でいつもつかってるベッドじゃないと色々こります。」
確かにもみがいがあるこりっぷりだ。
ただ、ベッドのせいだけとは思えないけどな…。
「それでその槍はなんなんだ?」
座っているベッドの横に立てかけてある槍。
見た目は普通の槍。
もちろんファランの友達の遺品というのは知っている。
デウス・エクス・マキナを撃破した時に落ちてきた槍だからな。
しかし、ありえないのだ。
もともと風属性もちの槍だったとしても、使う人が錬金術師であればその能力は激減するのが普通だ。
つまり、俺を横から吹き飛ばすような風が発生するわけがない。
「なんなんでしょうね。」
理屈はわかってないらしい。
「私が持つとなぜか槍が風をまとうんです。」
ふむむ…。
「魂もこの世界じゃ定義できちゃってるのかしら。」
俺がセクハラしないように隣でチェックしているイオがつぶやいた。
現実でも、霊とかなんとかってしっかりと定義できないのに、この世界ではそれが存在するというのだろうか。
いくら考えてもわからないという結果しかでないのだが。
ヴェルに聞いてみれば何かしらの情報がわかるかな。
でも、奇跡というままの方がきっとファランには幸せだろう。
電子の世界の数字の異常、そんな事実だったら夢も何もないってものだろう。
「少しよくなってきました。ありがとうございます。」
ということで俺のマッサージタイムは終了した。
で。今日はどうしようかなと思っていた矢先、
「かなた!いる?」
シエラが飛び込んできた。
「メンバー全員集めて頂戴。」
かなり焦っている。
「イオ。双子とレオ、リンカを探してきてくれ。」
「わかった!」
「ファランは俺の部屋で待っていてくれ。俺はヴェルと姉さんを探す。」
ーーー。
俺の部屋に全員集まった。
ヴェルは姉さんと姉さんの部屋にいたのですぐ見つかった…。
2人は俺がノックして入るとやけに焦っていた…。
「簡単に言えば、全滅したってことね。」
「一人を除いてはね…。」
話は要するにルート組が49層に入った途端、扉がしまり再び開いた時には全滅していたということだった。
一人扉の前で装備のチェックをしていたメンバーを除いて。
「今までのボス直前エリアとは違うってことね。」
「そうなるわね。」
シエラと姉さんの会話は続いている。
「そうなると次は攻略組全員で49層。」
「それしかないね。準備はしっかりとよろしく。」
そういってシエラは出て行った。
いつにない緊迫した雰囲気だった。
6人とは比べものにならない人数死んだんだろうな…。
しかし、この世界のスタートの人口約3万から比べればほんの数人。
それでも、その何万人という人を救おうとした連中が死んだのだ。
誰に感謝されることもなく知られること無く消えていったなんて…。
俺達もそれに加わるんじゃないだろうか。
馬鹿げたハイリスクローリターンだ。
「かなた。やめる?」
ヴェルが聞いてきた。
レオの方を見ると、それもいいですよという顔をしている。
だが、それは俺の選択であってレオ自身はきっと行くのだろう。
「やめられない。」
損得勘定というものを抜きにする感性は間違いだと思う。
しかし、誰にでもローリターンという感覚が共有できるものではない。
レオがリンカを現実に返すことがハイリターンとなるように。
俺には、この世界であった人々が現実に帰られることは大きな価値をもつ。
そして、最後に待つであろう井形と話をしたい。
何を望んだのか。