嵐が貫くものは
「氷花!こっちへ逃げて!」
ヴェルが今まできいたことのないような声で叫ぶ。
何も起きてないのに何があったんだろうか。
姉さんは攻略組の数人とだいたいドラゴンゾンビの口側にいるが、だいぶ遠い。
危険ってこともないだろう。
だが、姉さんはヴェルの方へとりあえず移動した。
「なんなの?」
そんなことを言いながら。
次の瞬間、ドラゴンゾンビの背からゴーストが出てきた。
そして、崩れたはずのドラゴンゾンビの顔の部分だけが宙に浮いている。
その口が開くと猛烈な風がまきおこる。
それは尻尾から放たれた極大魔法程度の威力ではない。
全てを呑み込み切り刻む嵐だ。
そして、それは姉さんがいたところを通り、4人の攻略組メンバーを呑み込んだ。
風の中で彼らの体が爆散する。
これが俺の見た死だった。
今4人の人間が死んだのだ。
この世界でも現実でも。
この世界自体が不条理とも言えるが、そんな世界でさらに不条理な攻撃にさらされて。
こんなのってありかよ…。
「かなた!なにやってんのよ!」
そんな俺の想いをシエラの言葉が制止する。
「あのゴースト倒さないとまた復活するのよ!」
「畜生!」
彼らの今までの生に対する感慨すらいだく時間はない。
月光を構え突撃する。
ゴーストは、そんな俺に気づき、ドラゴンの口をこちらに向けた。
再び開く口。
人のことをかまってはいられない。
思いっきり飛び上がって口の上に飛び乗った。
俺の後ろにいた人もいた。
俺が狙われなければ助かったかもしれない。
でも、仕方ないだろ…?
再び吹き出す嵐が2人をこの世界から排出した。
だけど、そのおかげで俺はこいつを殺せるんだ。
ドラゴンの口の上に立つと目の前にいるゴースト。
その顔の部分に思いっきり月光をつきたてる。
「ぎしゃー。」
この戦いで始めての敵の悲鳴だった。
だが、俺はもう何も考えられなかった。
何度も何度もつきたてる。
振り落とそうとしてくるのも気にせず突き刺す。
「死ね!死ね!」
何かを忘れるためにひたすら突き刺す。
「はやく死ね!」
そして、何度刺したかわからないころにゴーストは砂となって消えた…。
敵の攻撃は俺を殺せなかった。
でも、その嵐は俺の心に確実なダメージを与えた。
誰のせいで被害がでたのか。
こんなことしてまで俺達は前に進まないといけないのか。
俺の命の踏み台になった2人。