自分と相手の価値
明らかに攻撃がききはじめている。
ダメージを受けたところでHPゲージがないからわからない。
それに加えて既に死んだ身では痛覚がないのだろう。
悲鳴をあげることもない。
それでもわかるのは、腐った身体を支える骨にひびが増えてきたからだ。
既に両脇は俺の月光とファランの聖水をあびて肉を失い骨が剥き出しになっている。
そこに、攻略組の強力な攻撃が集中しているのだからボスと言えど苦しくなってくる。
「かなた。尻尾も切り落とせそうなら狙って。」
ヴェルは敵の一番強力な攻撃を削ぐ作戦らしい。
「わかった!誰か光の魔弾のチャージを頼む!」
「私に!」
クレリック系のクラスと思われる女の子が手をあげてくれている。
「これの先っちょに光魔法の詠唱を頼む。」
その魔弾は数少ない特別性の中級魔法まで装填できる弾丸だ。
それを二発分投げて渡す。
それを頼んでいる間も手を抜かない。
敵は俺を集中的に狙っているからな。
俺が離れると誰が狙われるかわからなくなって大きな攻撃がしづらくなるわけだ。
それに俺にはもうひとつ作戦があるからな。
左手のブラック・バートに氷の魔弾を装填する。
そして、尻尾のつけ根に銃身をつきつける。
ぐちょりという音がして付着した。
「ちょっとなにやってんのよ!」
イオが駆け寄ってくる。
「大丈夫だ!」
トリガーを引くと一気に屍肉が凍りついた。
凍らせることで吸着力がなくなるのは偵察の時に実験済みだ。
そして、その氷ついた表面にむけて月光を打ち落とす。
凍った表面は吸着することなくダメージを与えられた。
これも俺にしかできない攻撃方法だ。
その分、リスク高いんだけどな。
俺が狙われてる間は俺の守りたい人たちは安全だ。
「チャージ終わりました!」
「ありがと!」
投げてきた弾丸を受け取ろうとした。
しかし、投げられた弾丸は俺の手元ではなく、もっと敵側の方に落下した。
それでもしっかりとキャッチはできる距離だ。
と手を伸ばした。
「かなた!」
ヴェルの声が聞こえる。
そして、俺の目の前で尻尾が振られようとしている。
「馬鹿!」
他の連中が腹への攻撃に集中しているのに、イオだけが俺の方のカバーをできる距離にいたらしい。
それが仇となった。
ゴーレム戦の再現だ。
イオの右手から開かれる光の盾。
中級魔法までなら十分それで弾けるだろう。
しかし、これから待っているのは極大魔法級の攻撃だ。
「やめろ!」
無駄なやりとりをやるしかない。
絶対にこいつは俺を捨てない。
そうわかっていても言うしかないのだ。
そして、唸りをあげた風が光の盾と衝突する。
最初の衝撃で光の壁に亀裂が入った。
このまま待っていればさらにゴーレムの二の舞か。
俺だけが助けられてしまうかもしれない。
「レオ!」
叫びながら雷の魔弾を二発ブラック・バートに装填する。
「わかっております!」
レオに向けて一発目を放つ。
次の瞬間には、その雷撃にのって俺の目の前にレオが着地した。
「これでいいのですね?」
イオの脇に手をまわしている。
「レオならわかってくれると思ったよ。」
守りたいもののためなら…。
そういう思いが俺とレオにはある。
二発目を遠くに照準して放つ。
「レオ!やめて!」
イオの声が聞こえる。
悪い役をおしつけてすまないな…。
そして、俺と風の極大魔法の間には何もいなくなった。