恐怖との対峙
トスカーレの周囲には掘りが巡らされ城門からしか出ることができない。
そして、城門から外に出るとアスガル草原が広がっている。
高い木もなく見通しが良い低レベルダイバー向けの地形だ。
だから予想通り、ウサギやカニの敵とダイバーの激闘がそこかしこで起きていた。
この敵の絶滅に近い状態ではなかなかクラスランクをあげることは出来ないだろう。
「ヴェル。アスガル内じゃないのか?」
「うん。ランスロットの森にある湖の周りにゴブリンの巣があるんだ。」
「湖なら多少は見通しがいいのか。」
「そうだね。ゴブリンに囲まれるってことはないと思うよ。」
それなら安心だ。アスガル草原の狼やランスロットの森のゴブリンなどはダイバーを見つけると攻撃をしかけてくる危険な敵だ。おまけにゴブリンは仲間を呼んだりするから危うい。
「じゃ行こうか。」
「あいよー。」
ーーー。
ヴェルの案内のおかげで敵に襲われることなく湖についた。
「準備はいいかい?」
ヴェルは弓に矢をつがえて微笑みかけてきた。
「惚れちゃいそうだぜ。」
ハイフォンソードを右手に、サーペンダガーを左手に構える。
「ははっ。照れちゃうね。」
ヴェルが近くの一匹でいるゴブリンに向けて矢を放つとゴブリンの右眼に突き刺さった。
ゴブリンが悲痛で怒りを含んだ咆哮をあげる。
怒りで血走った左眼が敵を探している。
そして、俺と目が合った。
「グゥオッフ!」
右手に棍棒を構え走ってくる。
左手のサーペンダガーで受け流し、懐に飛び込むパリィから右手のハイフォンソードで袈裟斬りに繋げるチャンスだ。
棍棒を振り下ろしてくるのが見える。あの一撃はレベル差がある今、当たれば俺のほとんどのHPを吹き飛ばすだろう。 クリティカルが直撃したら一撃死かもしれない。
そして、棍棒は俺の目の前を通り過ぎ、土を抉った。
敵が目測を誤ったわけではない。
俺自身が仰け反って座り込んでいた。
フルダイブ式のゲームによくあることだが、恐怖で下がりたいという思いが行動になってしまうという現象だ。
こういう自体なのに俺は落ち着いていると思っていたが、十分に恐怖を感じていたらしい。
「かなた!」
ヴェルが続け様に矢を放ちゴブリンの身体をハリネズミにする。
ゴブリンのHPが3分の2無くなっている。
ゴブリンは再び怒りを目に浮かべヴェルに向かって突進をかけた。
肩からのタックルに対しムーンサルトで敵の後ろに回り込みつつ取り出したナイフを背中に叩き込んだ。
かえしのついたそれは簡単に抜けなくなっている。
「かなた!隙を作るから構えて!」
「おっおう!」
ヴェルがナイフに繋がる魔力でできたワイヤーでゴブリンを引き倒した。
仰向けに倒れガラ空きになった胴にダガーとソードの連撃を叩き込み、ついにHPバーを消失させた。
ゴブリンバンディットは倒れた。
ゴブリンバンディットから324リル入手した。
ゴブリンバンディットは鉄鎧を落とした。
ディソーダーランクが3になった。
紅蓮撃を修得した。
知覚加速を修得した。
ステータスポイントを2入手した。
・・・。
「かなた。今日はここまでにしようか。」
「いや、3分待ってくれ。カップ麺ができる前に復活するからさ。」
「焦ることないよ?」
「優しくしすぎるなよ。惚れちゃうぜ。」
「それは光栄。」
右手が円を描きながら胸に、足をひいて頭をさげるなんとも紳士なお辞儀の仕方が似合ってしまう優男だ。
それから3分たち、ゴブリン狩りを再開したが、調子がでないまま5匹倒したところで心配そうなヴェルのお願いをきき街に引き揚げた。