強敵の最期
俺達の攻撃はついに結果を出した。
必死で防戦をするサソリ。
もはやボスとしての落ち着いた誇り高い姿はない。
必死でまわり、必死で防ぎ、必死でけん制する姿は狩る側から狩られる側になっている。
そんな必死の動きもついに終わりをみせたのだ。
寒さと痛みにサソリの右脚はゆっくりとしか動かなくなり、旋回が間に合わなくなった。
そして、尻尾は捻じ曲げられ・・・。
バキッ!
と折れた。
「ギィィィー・・・。」
と悲痛な叫びが30層という空間全てを振動させる。
そして、勝者となった黒騎士は…。
まるで投げ捨てる様に尻尾を離す。
それで自由になった尻尾はもはや自由には動かない。
ただ、サソリの尻にくっついているだけだ。
黒騎士は何を思ったか無造作にサソリに近づいていく。
脚も動かなくなり右爪しか攻撃のできなくなったサソリ…。
その背中を足蹴にした。
なんどもなんども捻り潰すかのように踏む。
なかなか性格が悪そうだ。
そして、俺達もそれに混じって安全圏から攻撃しサソリのHPを弾けさせた。
砂の様に身体が崩れていく中、石碑だけが残る。
これが30層のボスの終わりだった。
そこらへんの雑魚と変わらないように砂となって風にながされ消えていく。
俺達の命をかけた敵でもこれなのだ。
なんだかすっきりしないものがある。
しかし、みんなの顔色は明るい。
なんといっても俺達はまたこの世界の脱出に近づいたんだからな。
それも誰も死ぬことなく。
そんなことを思っている静寂のうちにおっさん風のだみ声が響いた。
「リーダー。名前いれろよ!」
攻略組の連中が姉さんに声をかけている。
姉さんは帽子を深くかぶりなおし、目線をさえぎる影を作っている。
そしてぼそりと…。
「そんな・・・。私はもうリーダーなんて言えないから・・・。」
姉さんもなかなか空気がよめないな。
みんなの顔を見ればどう思われてるかわかるっていうのに。
そんな姉さんに助け舟を出したのはシエラだった。
「ノルンのおかげで今回被害者0なんだから!はやく!」
シエラが無理矢理、姉さんの腕を掴んで石碑を触らせた。
刻まれていく名前。
ユグドラシル30層ボス:スコーピオン 討伐者 ノルン
「おかえり。リーダー。」
「・・・ただいま。みんな。」
それを見て俺は安心して意識を手放した。