逆転の時
「かなた!何かカードもってない?」
俺の耳に姉さんの声が聞こえる。
「イオ!」
「うん!」
イオは爪の攻撃を剣で弾きながら左手で鞄からカードを取り出し姉さんへ投げた。
しかし、俺のほうもそれを見て時間を無駄にしている場合ではない。
「シエラ!支援するぞ!」
左手のホワイト・パールを連射しながら右手のブラック・バートからもダブルショットを撃つ。
命中したところから氷がひびを侵食する。
「いい援護ね!いくよ!三疾!」
居合の三連が氷の拡げたひびを的確に攻撃する。
そして、ついに足の一本が折れ少しだけサソリの身体が左に沈んだ。
その重心のズレを支えようと左爪が地につく。
「アタッカーチーム!全力で左爪に集中攻撃!」
姉さんの指示で反撃の無くなった爪に各自最強の一撃を叩き込む用意をしている。
尻尾に対する恐怖はあっても姉さんをみんなが信じているのだ。
「我の召喚に応えよ!」
姉さんが投げたカードは吹雪を起こし、黒騎士を召喚した。
氷なので青白いわけだが、黒騎士とよんでおこう。
その騎士が剣を鞘から抜き放つ。
しかし、抜かれた剣は氷のように砕け消えた。
イオの剣を一瞥した後、何ももたないままサソリに突撃する。
要するに世界にひとつしかない武器ということだろう。
それでも、黒騎士は黒騎士だった。
チャージ中のチームメンバーを狙って放たれた尻尾の攻撃をがっちりと掴んで見事にインターセプトした。
そのまま脇にかかえ尻尾の自由を奪っている。
「いくぜ!アースクエイカー!」
大きなメイスを握る大男がため切った技を繰り出す。
それに続いて次々にそこらへんの敵なら一撃必殺の技が爪に炸裂する。
それを耐えることはさすがに30層のボスといえどかなわなかった。
大きな亀裂が入り、つかむような動きなどできなくなっている。
大幅な攻撃力ダウンだ。
これで被害のリスクが落ちる。
「まだ気を抜かないように!」
盛り上がるメンバーを落ち着かせるのも姉さんの仕事らしい。
「でも、このままやるよ!」
「おうさ!」
まだ黒騎士は尻尾を押さえている。
勝利のチャンスのようにつかんで離さない。
「次は右爪か?尻尾か?」
「厄介なのは攻撃範囲広い尻尾よね。」
シエラも勢いだけのタイプじゃない。
素早い攻撃と狡猾な作戦で今まで生き残ってきているのだ。
「尻尾なら私に作戦があるわ。」
姉さんが詠唱を開始しはじめた。
その魔法は召還した対象への魔力供給量を上昇させる効果がある。
黒騎士の鎧に痛々しいトゲや鎖がまきつき、さっきまで氷の彫刻のように洗練したデザインだった姿が、まがまがしくなっている。
「力が沸いてくる!」
黒騎士しゃべりはじめたし…。
「ここはまかせろ!」
いちいちカッコイイし…。
死亡フラグっぽいけど大丈夫かよ。