譲れないもののために
目の前が真っ赤に染まって見える。
「かなた!」
イオの叫ぶ声が聞こえる。
その声で俺はここで素直には終われないと思い出した。
「イオ!まずは盾の役目に集中しろ。」
心配そうにしているイオにそれだけを伝えた。
こちらのことは自分でなんとかしなければならない。
まずが言うことを聞かない腕を震わせながら鞄の中につっこんだ。
包帯ぐらいならあったはずだ。
しかし、震えた手は取り出すことはできても握力までは言うことを聞いてくれずこぼしてしまった。
包帯はころころと遠くの方へ転がっていく。
「くそっ。」
芋虫のように地を這う。
血のラインを引きずるその姿は滑稽だろう。
それでも取りにいかなければとしているうちに足のほうから冷気を感じた。
出血多量のショック症状とかではなく純粋な冷気。
「終わるまで待ってなさい。」
姉さんの声が聞こえる。
でも俺はそうするわけにはいかないのだ!
何もできずに見送るなんてごめんだ。
「俺はイオを。姉さんを。みんなを守りたいんだ!」
立てもしないくせにそう叫ぶ。
足先から始まった氷の付着がゆっくりになる。
そして、冷気が止まった。
「シエラ。少し指揮をお願い。」
「あいよー!」
姉さんがこぼした包帯を拾う。
そして、俺の身体を起こし巻いていく。
「冷えるけど我慢しなさいよ!」
そういうと包帯の上を氷でコーティングした。
血管の収縮と圧迫の効果で出血が止まる。
さらにクレリックの仲間から回復魔法を受け俺はやっと立ち上がれた。
「応急なんだから長くはもたないわよ!それと溶けないように注意してね。無理だと判断したら一気に全身凍らせるからね!」
「おう!」
両腕に力をこめる。
こんな毒たいしたことねぇっ!
そして、秘密兵器としてリルに預かった包みを鞄から取り出し開ける。
ホワイト・パール。
古めかしい感じのブラック・バートに対して現代風なハンドガンを模したような白い銃だ。
マガジン式なので連射しやすい。
その分威力も落ちる。
魔法カートリッジで魔法効果の付与もできるがブラック・バートと比べると弱い。
その白と黒の銃をそれぞれ左手と右手に握る。
虫系の敵と言えば弱点は火と水と氷の可能性が高い。
姉さんに頼めば無料の氷の魔弾を選んだ。
サソリはというと既にワイヤーをちぎり攻撃を再開している。
姉さんは指揮に戻り、シエラは足に向かって攻撃をしかけなおしている。
シエラの攻撃に対してイラつくように左爪がシエラを襲撃するが、紙一重で避けながら同じ箇所を攻撃し続けている。
恐怖をものともせず少し笑っているようにも見えた。
そして、小さなひびが入った。
それが俺たちの反撃の狼煙になる。
狼煙にしなければならない。