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ラストライフ・オンライン  作者: 蜜柑
脅威の塔
68/99

自業自得のいろいろ

 そう。信じた方が悪い。


 俺達はユグドラシル30層のボス戦のために、三日前に出発した。

 20層には二日目の夜につく予定だったが、一日半といったところで到着した。


 一度通った道をヴェルが間違えたのは見たことがない。

 左だなっと思っていてもヴェルが右に曲がれば確実に右だ。

 自分の頭よりも信頼できるヴェルに体が動かされている。


 敵が多いところもしっかりと回避してくれるから、俺達は安全にここまで来た。

 

「なぁ。レオ。リンカ置いてきて大丈夫だったのか?」

 18層を歩いている最中に俺はレオに話しかけた。


「はい。ルリさんに懐いて少しだけ待っててあげると許可を貰いました。」

 それは本当によかったと思う。

 あのゴスロリな少女は、格好で目立って置きながら、レオ以外は信用していないという雰囲気があった。

 俺と一緒も嫌がるだろう。

 だからといってこんな危険なところに連れてきていたらいつか死ぬからな。

 少しずつでも元気な少女に戻ってくれたらいいと思う。

 戻ってくれたら・・・?


「レオって現実じゃリンカと知り合いじゃないんだよな?」

「えぇ。偶然この世界で会ったのが縁です。」

 となると元がどういう子だったのか誰も知らないのか。



 と思っていたのを口にしていたらしい。

「そうなりますかね。私と2人でいる時は少しだけ明るい顔をしてくれますが、元の彼女にはまだ遠い気がしますね。」

 残念そうにレオが言う。

「30層のボス戦が終わったら少し遊びに誘ってみないか?」

「そうですね。無事終わればそうしましょう。」

 嬉しそうにしてくれて一安心。


 しかし、待っているのはボス戦。

 全員無事なんて誰も約束はしてくれない。

 イオも普段より緊張している雰囲気がある。


 まあ、それでも20層までは俺達にも余裕があった。


ーーー。


 21層。

 もう何時間ここにいるかわからない。


「姉さん。」

「なに?」

 道案内のために先をあるく姉さんの振り返る顔には焦りがみえる。


「道に迷ったね?」

 別に姉さんが道に迷う巨乳だったのを忘れたわけではない。

 ただ、あまりにも自信たっぷりに言う姉さんを今度こそ大丈夫かなと思ってしまったのだ。


 そう。信じた方が悪い。


「…さっきのとこ間違っただけよ!少し戻るわ!」

 そう言って後ろに帰りはじめた。


「そっちでいい気がするけど…。」

 ヴェルが控え目に言う。

 ヴェルのこういう勘はよくあたる。


「そこの扉入った所なの!」

 さっき素通りした扉に向かう。

「そこは開けない方がいいって…。」

 また控え目にヴェルが言う。

 もしもこの2人付き合ったら絶対ヴェルが振り回される。

 まあ、付き合うなんて認めないけど!


「ここよ!」

 といって盛大に開くとその部屋には大量の蜘蛛がつまっていた。

 奥の方には特に大きい大蜘蛛。

 そして、一斉に姉さんに向けて蜘蛛の糸を飛ばしてきた。


「ちょっと!やめなさいよ!」

 手脚をからめとられて引きづられる。


 俺は焦って武器を構える。

 右手には剣:月光。

 正直前の原型をとどめていない。

 重かった前の月光とは逆に軽量化が進んでいる。

 シエラの長刀:景翼けいよくを参考にしたのがわかる薄く鋭く軽い剣。

 その分、ガードには使いにくくなっている。

 避けるタイプ用の武器だ。

 

 左手には銃:ブラック・バート。

 こっちは特に変更点なし。

 中級魔法まで使える弾丸を追加したぐらいだろう。


 蜘蛛の糸を燃やすべく、火の魔弾をブラック。バートに装填する。

 そして、構えた時には

「火の精!矢に!」

 ヴェルが矢を放っていた。

 火の鳥になった矢が糸を食い破る。


 よって、姉さんに一番近づいていた蜘蛛を火弾で焼き払う。

 そのまま走りこんで姉さんの傍へ。

「イオ。フォロー頼む。」

 接近戦は不利なのでヴェルには頼めない。


「もちろんよ!」

 再び一斉に糸を吹きかけてくるのに対し、光の盾を展開させはじく。

 その間に俺は姉さんの糸をほどこうとするが、ねばねばして上手くいかない。


「かなた。腕優先でお願い!」

 姉さんの指示。

「わかった!」

 

 その間、ヴェルは一匹ずつ撃ち殺していく。

 そして、親玉と思われる大蜘蛛にも矢を放つがはじかれている。

 鉄のような甲殻だ。

 レオは次々に小さい蜘蛛たちを殴り倒すが、大蜘蛛の脇の影から次々に沸いてきて減っている気がしない。


 腕の糸さえも解けずにいると

「かなた。火弾で手の辺り焼いて!」

 姉さんもなかなかひどいお願いをするな。

「わかったよ。我慢して。」

 そして、俺はそっと自分の右手を姉さんの腕にあて、その上に銃身をつきつける。


「なにしてるのよ!」

 答えずに発射。

 火は俺の手をもやし、その熱で姉さんに絡まる糸だけを溶かすことに成功した。


「もう!」

 そして、手が自由になった姉さんは魔術を詠唱し俺の右手を消火した。


「ばか!」

 そして、中級魔法を詠唱。

 氷の中に姉さんが飲まれていく。

 それからパリパリと割れ、全ての糸が消え去った。


「借りは返させて貰うわよ!弟の分もつけて!」

 吹雪が吹き荒れ始める。


「我の召還に応えよ!」

 そして、一枚のカードを前方の空間に投げたかと思うとそこに氷のゴーレムがたっていた。

 

 踏み出すごとに地が揺れ、たくさんの蜘蛛の糸にまかれ妨害されるが大蜘蛛に向けて前進を続ける。


「ゴーレム盾にして突っ込むぞ!」

 氷のゴーレムの後ろに隠れながら矢と氷の魔術、俺の銃で周りを囲んでいる蜘蛛を撃ち落としていく。

 だが、ゴーレムに絡む糸は増え、前進が困難になっている。


「氷花。そろそろゴーレムを戻したほうがいいかもしれない。」

 ヴェルがそう言った。

 だれがそんな呼び方をする関係を許した!

 これ終わったら説教だ。


 しかし、よくわからないがゴーレムの身体から軋む音がしている。


「わかった。一度カードに戻すわ!」

 そして、一枚のカードに戻って姉さんの手元に帰ってきた。


 しかし、俺たちの盾がいなくなったことで前方からの攻撃を防ぐ手段がなくなった。

「私の射程距離ですが、突撃してみましょうか?」

 レオの提案。


「待て。一人で行ったら何が起きるかわからない。」

 ここで死なすわけにはいかないからな。


「イオ。後方に向けて光の盾はってもらえるか?」

「うん!」

 一番前方にいたイオが最後尾に移動する。


「ヴェル。一番前頼む。」

「はいはい~。」

 一番後ろにいたヴェルはひゅんっと空中で一回転して一番前に着地した。


「姉さんも前に。」

「もう来てるわ。」

 俺の言う事なんてすぐわかるのだろう。


「よし!イオにガード全部任せて攻撃一気に行くぞ!」

 イオの放つ半球が俺達の横も守ってくれる。


「姉さん氷の一番強い魔法を!」

 俺自身も氷の魔弾を装填する。

 そして、姉さんの詠唱に合わせて撃つ。


 部屋自体が凍りつく勢いで大蜘蛛の周りを凍らす。

 小さな蜘蛛は全滅した。

 しかし、大蜘蛛へのダメージとしてはイマイチだ。

 まあ、鉄みたいな殻なのだから想定通り。


「ヴェル!」

「わかったよ。」

 そして、ヴェルの放った火の鳥に俺の炎弾を打ち込み強化。

 わかりやすく言えば不死鳥のような見た目になった火の鳥が大蜘蛛に突撃していく。


 そして、その温度差に耐えられなくなった鉄の装甲がもはや砂のお城のように盾としての機能を失っている。

 

「レオ!」

「わかりました。」

 大蜘蛛の顔に電光石火のように移動したレオの最強の一撃を叩きこむことで大蜘蛛は砂のように崩れて消えた。


「見事な連携でした。」

 後方からパチパチと拍手が聞こえる。


「シエラか。助かった。」

「ちょっと心配になって降りてきたらまだこんなとこだもんね。」

 皮肉も嬉しいぐらいだ。

 姉さんとこれ以上迷ってたら死にかねない。


 それから俺達は道に迷うことなく29層にたどり着くことができた。

 その途中でシエラには感謝を伝えておいた。


「シエラ。ありがと。助かったよ。」

「そうでしょう。そうでしょう。」

「姉さんに気遣って危ないのに一人で来てくれたんだよな。」

「だよー。」

「ほんとありがとう。」

「言葉だけよりも…ね?」

 シエラの笑顔が怖い…。

「…貸し1で頼む…。」

「はいはい。このボスが終わったらまたデートね。」

 もとよりデートなんてしたことはないのだが…。


 それでも、俺たちはそれぞれに約束を作った。

 このボスが終わったら…

 そういう約束をそれぞれに。

 生きて帰ってくるという約束をするために。

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