許されることと許されないこと
決闘に勝利した俺は、協力関係において条件をつけることができた。
「俺達の共闘はボス戦のみだ。」
酒場に戻った俺とシエラは丸テーブルを挟んで向かい合って座った。
「なんで?ずっと一緒にいこうよ。」
イオを外に待たせておいてよかった。
何が始まってたかわからない。
「それが条件だからな、譲れない。」
きっぱりと言い放つ。
「なんで?」
「譲れないからだ。」
「…ふ~ん。」
明らかに不機嫌だ
顔にそう書いてある。
隠し事とかできないタイプだろ。
「他の条件はそっちで決めてくれ。戦利品に関してもそっちのルールに従う。」
「はいはい。」
なげやりな返事。
まあ、どうなってもいいのでそれは気にしない。
「ところで、他の連中は納得できるのか?」
決闘が決まった段階で思っていたが、荒くれものも集う攻略組の全員が納得するのだろうか。
「ふむ。どうかしら?みんな。不満のある奴は戦ってみる?」
シエラが酒場全体に聞こえるように言った。
少しだけ静寂が広がる。
「シエラが負けた奴に俺達が勝てるわけないだろ。」
そして、酒場全体に笑いが広がる。
豪快で陽気な笑いだ。
俺はずっと攻略組っていうのは閉鎖的で陰湿な雰囲気があるんじゃないかと思ってた。
頼れるのは自分ひとり、そんな連中ばかりだと。
だが、自分のために、誰かのために戦うこいつらは、危険を全員で乗り切ってきたんだ。
仲間の多くを失っても、その仲間達の遺志をついで。
姉さんのことでなんとなく良いイメージがなかったが、改めよう。
ーーー。
とりあえずの契約を決めて俺はイオをつれてみんなの待つ宿に戻ることにした。
「それで、大丈夫だったの?」
その帰り道。
俺達は並んで歩いている。
「ああ、ボス戦のみの共闘だ。」
あの連中なら姉さんを受け入れてくれるかもしれないと思ったが、かもしれないで挑戦するほど俺は蛮勇をもっていない。
「そっか。よかったね。それで、今後の予定は?」
「宿に帰ってみんなの前で言うつもりだったが、5日後に30層ボスの攻略を行う。」
「そっか・・・。かなた死なないでね。」
不安になるのも仕方がないよな。
「ああ。イオは死なせないから心配するな。」
「…うん。」
ーーー。
宿についた。
俺達は俺の部屋に集まっている。
「そういうわけで30層ボスをやることになった。」
全員の前で早速、話を切り出す。
「いよいよですか。」
レオが顔を曇らせている。
きっと自分よりも若い人達が命をかけなければいけないことに苦しんでいるんだ。
警察官としての想いかもしれない。
でも、この世界において現実の仕事や年齢などなんの意味もなさない。
皆同様にこの世界の虜囚であるということだけ。
だから、何も責任を感じる必要はない。
「レオが悪いわけじゃないんだ。仲間全員で現実を取り戻そうぜ。」
「そう!私達はみんな仲間!」
・・・。
「なんでシエラがいるんだよ!」
驚いてベッドに座っていた俺は立ち上がってしまった。
「扉を開けたからが正解!」
「方法はきいてねぇよ!」
「興味あったから!」
「あったらなんでもしていいと思ってるのか!」
「いい!」
そんな応答をしている間、姉さんはヴェルにもらった帽子を深くかぶりなおした。
編みこんだ髪は確かにいつもの姉さんと違う雰囲気を出している。
これなら気づかれないかもしれない。
「理由ってノルンのことだったんだ。」
一発でばれた。
姉さんも仕方なく帽子を脱ぐ。
俺は最低だ・・・。
姉さんのためにやってきたつもりが最悪の形での再会にしてしまった。
「久しぶりね。シエラ。」
「お久しぶり。リーダー。」
ぎこちない挨拶。
「リーダーだったの?!」
イオが驚く。
リーダーがいなくなったとはそういうことだったのか。
「そう。攻略組のエースにしてリーダーの氷の魔女さん。ね。ノルン。」
「・・・。」
「こんな形で会えると思ってなかったけどセオから伝言を預かってる。」
びくっと震える姉さんの肩。
俺はどうするべきなんだ。
「お姉さん。それ以上勝手に立ち入ることは許されないよ?」
そして、行動したのはヴェルだった。
自分の影に隠すようにヴェルが間に入っている。
「文句があるなら僕が聞く。だから、今日は帰ってくれないかな?そうしたほうが身のためだと思うんだけど。」
ヴェルには珍しく、脅しを含めたような言い方だった。
それに対して、シエラは好戦的な顔を見せる。
「いいの。ヴェル。ありがと。でも、私は聞かなきゃいけないの。」
「そう?あんまり無理しちゃだめだよ?」
「うん。ありがと。」
そして、シエラに先を促す。
「セオがね。兄のことは気にしないでほしいって。兄はノルンを助けたほうが自分が残るよりこの世界の多くの命を失わせずにすむと判断したからノルンの盾になったんだって。」
黙ってきくしかなかった。
「セオもね。自分で伝えたかったと思うんだ。でも彼も20層で死んじゃった。だから私が彼の遺言を預かってきたの。」
「そう…。」
結局は救われない話だ。
誰一人として救われてはいない。
姉さんはひたすら涙をこらえようとしていた。
泣くことを許される立場ではないと思っているから。
「氷花さん。部屋に戻ろうか。」
ヴェルがそっと手を差し伸べる。
「うん…。」
姉さんらしくないしゃべり方だった。
姉という役目を忘れたかのような。
それから2人は、その悲しみに包まれた体をそっと起こし部屋をでていった。
ヴェルと姉さん…。
きっと俺という家族では癒せないものを2人の関係は癒せるものなのかもしれない。
そういうとまるで何もできない自分の言い訳のように聞こえるが、イオと一緒にいて救われる俺はこの感情の持つ関係性に何度も救われているのだから。
まあ、弟は絶対に結婚は認めないぞ!