微塵の余裕
下段に構えたままゆらめく刀。
シエラの体には無駄な力が入っていない。
というよりも必要な力さえ入っていないように見える。
踏み込む前にある足やその指先のためみたいなものが一切感じられない。
しかし、シエラの目は今にもしかけてきそうだ・・・。
目がまやかしか、力の入っていないように見える身体がまやかしか。
性格的には待ちなんてありえないタイプだろう。
そう思いながらも今までの戦闘の経験が俺に油断させた。
あの構えからは踏み込んでこないと・・・。
「あら?斬っていいの?」
気づいたときには、目の前4メートルの位置にいたはずのシエラが真横に立っていた。
そして、刀を下から跳ね上げてくる。
自慢のAGIとステップスキルを全力で発動し、後ろに飛び下がる。
結果、俺はAGIの次に自慢のリンカ謹製コートを切り裂かれるというめにあった。
綺麗に切り落とされたそれは地面に落ちる。
重量で叩き潰す大型の剣と違い、その斬れ味と引きで切断するシエラの刀の特性のおかげで切断面は綺麗だ。
修理もできるだろう・・・。
「次は上と下どっちを脱がせましょう。脱ぎたくないなら武器を出すことね。はったりや奇策程度じゃお姉さんをやっつけるのは無理。」
俺の回避速度も見越して服だけを狙って斬る・・・。
実戦慣れしている。
結果、情報戦の有利の一部を捨て、俺は魔法剣:月光を物体化させた。
そして、普段は右手一本で握るそれを両手で握る。
俺は勝つためなら奇策だろうとなんだろうと積み重ねる。
「なかなか重そうな剣ね。」
「両手で振るには丁度いいさ。」
「ふーん。」
含みを持たせた笑み。
しかし、ばれていると考えるのは早計。
こういう奴はなんにでも含みを持たせるタイプだ。
ばれてると勘違いさせるのが作戦だろ。
「さて、構えたとこでいく・・・よ!」
今度は足先のためが見える。
フェイントか、技狙いか。
そうやって様子を見ていたせいで再びシエラの先制攻撃を受ける。
刀を縦に振り下ろしてきた。
それを月光で受けるためにななめに構える。
軽いはずのその刀の切っ先は遠心力で重たい一撃を放つ。
当たれば即死もあるそれをスキル受け流しのアシストも受けつつ横に流していく。
正直、冷や汗がとまらない。
しかし、ここでこそおれの冷静さが活きる。
受け流し後、確実に一撃叩き込める。
そう簡単に何度もチャンスはこない。
一撃で9割狙い。
魔法剣発動で胴。
「一撃で死ぬなよ!」
受け流しきり隙だらけのその胴に向けて月光を横なぎに放つ。
トリガーを引き姉さんの入れてくれた氷の中級魔法を剣に伝える。
が・・・。
「危ないじゃない。」
相手の胴に攻撃を叩き込んだはずの俺が横っ腹に攻撃を受けて後ろに後退させられていた。
「二式朧はお気に召した?」
余裕のある笑み。
「刀と鞘を使った連続二回攻撃か。」
「ふふ。そっちも属性を持たせる剣なんて見たことない武器をもってるね。」
二式朧。
直撃してHPの一割。
ダメージ狙いというよりも隙を潰す技か。
本当に実戦向きなやつだよ。
豪快に見えて堅実。
やりにくい。
「そろそろ特技使っちゃうよ?」
特技・・・バッカニアは爆発芸術だ。
ただの侍なら防御系の特技だったはずだが・・・。
明らかにただの侍じゃないので判断できない。
こうなれば、先制をしかけインターセプト狙いだ。
足に力を込め、地を蹴り放つ。
「スキル!三振連携!」
シエラが鞘に刀を納める。
居合いというやつか。
「四式疾!」
抜刀からの高速の一撃。
月光で受ける。
その受けたことで発生した俺のラグ。
「六式燕!」
左前方への跳躍と共に刀の切っ先が俺のよこをすり抜ける。
予備で持っていたダガーを左手に物質化し受ける。
再び受けるラグ。
反撃など考えることもできない。
「参式返!」
俺の右にいたシエラが飛び上がりながら刀を下から上へと跳ね上げる。
それをクロスさせた二刀で受けるが衝撃で跳ね上げられた。
空中で追撃なんてきたらもう受けられない。
「あら。しのがれちゃった。でもやっぱり二刀流を隠してたね。」
追撃はなかった。
無事に着地。
なるほど。
三振とは三連続のアビリティー連携のことだったのか。
「ちょっと手抜きでうっちゃったかな。次は本気でうっちゃうよ?」