予期せぬ接触
俺は姉さんの言っていたユグドラシル攻略を目指す連中の拠点に来ていた。
そこは西部劇でよく見かけるような酒場だった。
バーンっと開けたくなる両開きの木製扉。
バーン!
「たのもー!」
西部劇風でも日本人の心を忘れない。
しかし、しゃべる言葉を自動で翻訳して声の高さなども調整し自分らしい声で話してくれる機能がついてるこの世界の中ではアメリカ人あたりにはなんと訳されるのだろう。
頼もうだからぷりーずへるぷみー?
情けないというか心配されそうだ。
まあ英語は苦手だ。
気にしない。
こういう冷静なふりをするのに便利な思考にふけったのには理由がある。
誰も、またはほとんど人がいないと考えていた酒場には明らかに攻略組とわかる戦闘系のクラスの人間でごった返していた。
そんな中で俺はたのもー!と叫んだわけだ。
恥ずかしい。
もう帰ってもいいだろうか。
静まりかえる酒場。
全ての人が俺を見つめている。
これは一曲歌わなければ!とパニックにおちいりかけたころ救いがあった。
1人の女の大爆笑という最高の救いが。
「あははー。なにあんた。面白すぎ。」
陽気そうな見た目の上に爆笑も陽気だ。
その女というのがなんとも一貫性がない格好な気がした。
肩まで伸ばした髪に額当てというか鉢巻というか。
というのも刀を持っているのだからサムライ系のクラスで、そんな人にヘッドバンドと言うのも失礼と言うものだろう。
俺は数少ない侍の心がわかるおのこだからな。
まあ肩にかけた大きなヘッドホンが全然サムライらしくない。
ホットパンツにチューブトップでヘソだしとかどこがサムライなんだという感じだ。
要するに、笑った顔が非常にかわいらしい、陽気なムードメーカーだった。
っと相手の容姿をチェックしていると、
「子供のくる場所じゃねぇぞ!」
女の大爆笑で崩れた場の静止の代わりにどっかの悪役かという顔の男から罵声を浴びた。
散々子供らしさを思い知らされた最近だがよく知らないようなやつにいいように言われるのだから苛つくものは仕方ない。
しかし、口答えしてやろうと思った矢先に例の女が先にしゃべることでチャンスを逃した。
「まあまあ。バロちゃんも大人なんだからそういう態度はどうなのかなー?」
「ぐっ!」
悪役を一発で撃退する見事な言葉。
ただのムードメーカーではないようだ。
「で、君。名前はなんていうの?」
肩に手を乗せられて顔をじっとみられたら答えるしかない。
「かなただ。」
それでもちょっとした反抗としてなるべくシンプルに答えた。
「かなた・・・ね。聞いたことあるかも。」
「おう!黒騎士の討伐者じゃねぇか!エリアボスが数日で倒されたって噂になったもんだぜ。」
知らない男が懇切丁寧に説明してくれた。
まあ、ほとんどイオとヴェルのおかげだがわざわざ謙虚な姿勢を見せても仕方がない。
「へぇ~。強いんだ?」
女の挑発的な声。
「俺だけ名乗らせるのが礼儀か?」
「あら。ごめんなさい。シエラって呼んでね。」
ぺろっと舌をだして謝った。
・・・。
そう言われても話続かねえよ。
「呼んでね。」
「・・・シエラ。」
「なんでしょう?」
呼べって言ったから呼んだんだろ!
仕方ない。
メモでも残して帰るつもりだったが直接言おう。
「俺たちも攻略に参加させてくれ。」
「それじゃ私と戦おうか。」
「はっ!?」
こっちが意味がわからないって顔をしてるのに、困った顔をしてみせられても困る。
「ここのリーダーさんいなくなっちゃってさ。許可とかどうすればいいのって感じだし。実力を試させてもらうのがはやいかなって。」
急遽沸き立つ外野。
「俺は当然シエラにかけるぜ!」
「あのがきっぽいのも強そうじゃねえか!大穴坊主に3万だ!」
賭けが始まっている・・・。
回避できない戦いらしい。
というかここで逃げたら笑われ続けるな。
しかし、俺は得物を収納してる分、情報量で優位だ。
それにβ版からのダイバーって自負がある。
決闘で負けるわけがない。
「受けてたつ!だが、俺が勝ったら参加条件はこっちで自由に決めるぜ!」
攻撃的な返事になってしまったが雰囲気のせいだ。
俺はいつも冷静ですよ。
「いいわよ。でも、勝てるかしらね。」
前屈みになって挑発するようなポーズを取るのはいいが谷間が見えて困る。
だが、さっきから笑われっぱなしでそろそろ我慢できない。
我慢できないっていうのに・・・。
投げキッスまでされて俺の怒りが我慢の限界を越える。
あとは、結果で語るのみ!
「勝つさ。」