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最初の一歩

「氷花姉さん!」


「姉さん!いるんだろ?」

 

 さっきの氷ゴーレムが姉さんのものなら確実にこの階にいるはずだ。

 そして、この階はただ長い通路。

 今いるとすれば、上がる階段か下がる階段の近くにいるしかないはずだ。


 俺たちは上がってきたのだから可能性的には上が高い。

 と上への階段のある方の扉を見る。


 さっきまで閉まっていたはずの扉が少しだけあいている。

 その向こうからこっちをこっそり見つめる瞳。


 それだけで俺にはわかる。

 ずっと見てきた瞳だ。

 

「姉さん!」

「かなた・・・?」


 俺は扉に向けて走った。

 もうこの世界にきて何日たったか覚えていない。

 それでも、毎日一緒にいた姉さんをずっと見てなかった俺の心は乾ききっていた。


 姉さんもゆっくりと扉から出てくる。

 その顔は猫人キャティーの種族特性で少しだけ違っているけれど姉さんの顔だった。

 見た目は普段とは違う。

 まさに魔女といった姿だ。

 ふかぶかとかぶった三角帽子は羽の飾りがついている。

 それなのに目線を隠すほどかぶっているから少しだけ暗く見えた。

 そして、腰まである長い髪。

 ショートに挑戦する前の姉さんだ。

 俺はこっちのほうが好きだったな。


 そんな感じで姉さんの全てに目がいってしまう。


 そして俺は目の前に迫る大きな胸に飛び込んだ。


「やっとたどり着いた。」

「かなた。なんでいるの?」


「追ってきたんだ。」

「なんで!なんでこんな危ないところにきたの!」

 姉さんの言葉は内容は怒っていても、声は泣いていた。

 俺に対して怒る言葉が止まるまで俺は黙って聞き続けた。


 そして、ついに姉さんはただ泣くだけになった。

 いつも強い姉さんは心を孤独にしてここまで来ていたのだ。

 どこか安全なところにいればいいのに、強いから心を磨耗して戦い続けたのだ。

 俺の価値がどれほどあるかは知らないけれど、きっとその隙間を埋めるのに唯一の家族は十分な価値があったのだろう。


「待たせすぎてごめん。」

「待った!待ちすぎた!」

 この言葉だけで俺はここに来たことに意味があったと納得できる。 


「氷花さん遅くなってごめんね。こいつ何度もリタイヤしそうになってさ。」

 イオが俺の後ろに来ていた。


「葵ちゃん?」

「お久しぶりです。」

 姉さんが一発で見破ったのに俺は・・・。

 その心を読んでかイオがにやにやしている。

 ちょっと悔しかったがいつも通りのイオに安心した。


「葵ちゃんがかなたを支えてくれたんだね。」

「えぇ、まあ。」

「葵がいなきゃここにはいれなかった。」

 素直な気持ちを言葉にする。


 そんな俺と葵を見て姉さんが何かを理解した顔になった。


「あら。葵ちゃんが鈍感なこの子を好きなのはしってたけど願いはかなったのね。葵ちゃんが彼女なら私も安心してバカな弟の世話を任せられるね。」

「へ?」

 顔を真っ赤にするイオ。

 姉さんに見破られてるのも知らなかったんだろうな。

 俺は当然知らなかったので何も言えないが。


「これからもずっと俺の尻を叩いてくれるのを期待してる。」

 素直には言葉にできないので、捻くれたいつも通りの言葉で俺はいつもと違う結果をだそうとする。


「は?」

 イオの顔がさらに赤く染まる。


「葵ちゃん顔が真っ赤よ。もう一回アイスゴーレム召還して冷やしてあげよっか?」

 優しい言葉と裏腹に姉さんはにやにやが止まっていない。

「それとも、2人だけの時間を提供したほうがいいかしら?」


「もうやめてやってくれよ。」

 イオが噴火しそうなので姉さんを止めることにした。


「あら。かなた優しくなったのね。愛の力かしら。」

「まあな。」

 止めるつもりだったけれど、つい乗ってしまった。


 今にも煙をあげそうなイオの顔がかわいい。

「あぁ、でも今、採点されてるとこだった。不合格になると俺は捨てられるらしい。」

 捻くれた言葉でとどめをさしておいた。


「かなた。そろそろ紹介してくれないのかな?」

 そう言ったのはヴェルだった。

 さっきまで俺はこいつをただの逆恨みで殺そうとしてたのに、そんなことなどなかったような顔をしている。

 いつかは謝らないといけないことだが、今はその優しさに助けてもらうことにした。


「姉さん。こいつがヴェル。ずっと俺ときてくれたパートナーだ。」

「こんな手のかかるやつの世話をしてくれてありがとうございます。」

 丁寧に挨拶している。

 どこの世界にいっても俺は姉さんの手を煩わせるな。


「いえいえ。これからもお世話するのでお気遣いなく。」

 恥ずかしいがまったく言い返せない。


「この双子がルリとリル。」

「可愛いお姉さんと弟さんですね。」


「俺が兄だ!」

 憤慨する兄。

「手がかかって困ります。」

 手のかかる兄弟の世話が大変という2人の共通点。


「こっちがレオとリンカ。執事とお嬢様だ。」

「執事なんて実在したんですね。弟が迷惑をかけたと思います。ありがとうございます。」

「いえいえ。逆にかたなさんにお世話になってばかりですよ。」

 リンカは執事の後ろで頭をさげていつも通り黙っていた。


 こうして、俺の最初の一歩、姉さんとの再会ははたされた。

 あまりに遅くなってしまったけれどやっと。

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