苦悩の終末
俺は壁に背中から激突した。
「がはっ!」
硬い石でできた壁にぶつかった衝撃ですべての空気を肺から吐き出してしまう。
意識をつなぎとめるのでやっとで頭の指示に身体が答えてくれない。
「かなた!」
リルが心配してこっちに来ようとするがレオが止めている。
リルのHPは俺たち戦闘系に比べて圧倒的に少ない。
護衛のレオもそれを知っているから必死で止めている。
だからといって、ゴーレムの方はそんなことを待ってはくれない。
地響きをたてながらおれの方に歩いてくる。
再び振り上げる拳。
その巨大な拳は俺の残り少ないHPを吹き飛ばすには無駄が多すぎる。
だが、今度こそイオが俺とゴーレムの間に割り込んだ。
結果、イオに向けて放たれる重い拳。
「聖なる守護!」
イオの右手から広がる半球状の光の盾。
ゴーレムはそれを見てもなお単純に拳を振り下ろした。
ぶつかり合う拳と盾。
土煙をあげ拳の先端が崩れる。
しかし、盾の方も軋み悲鳴をあげている。
デウス・エクス・マキナのミサイルさえ軽々と防いだそれが今にも割れそうだ。
「イオ!逃げろ!」
盾を発動してしまった今、移動もできないだろうけど、なんでもいいから逃げて欲しかった。
「そんなことできるわけない!」
こっちを見ることなくイオが叫ぶ。
ゴーレムは一度で破壊できなかった壁に二発三発と左右の拳を交互に叩き込む。
そのたびに盾が軋みくずれそうになる。
その間になんとか俺の腕だけは動くようになった。
だから、イオの盾を補強するために、クレリックにかなりぼったくりな値段で入れてもらった光の魔弾をブラック・バートに装填して撃つしかない!
ただの時間稼ぎにしかならないが今はこれしかない。
普段なら簡単にできる排夾も今は上手くいかない。
焦れば焦るほど手間取る。
そして、装填にはもっと時間がかかった。
だが、間に合った。
そして、光の魔弾を装填したブラック。バートを盾に向け構えるなければ!
なのに、俺は腕に絡んだワイヤーで照準できずにいた。
それどころか、そのワイヤーに1人安全圏まで引っ張られた。
なんとか着地し、そのワイヤーをたどり見るヴェルは凍りついた微笑みを顔に貼り付けていた。
その心がまったく見えない。
俺はそんな顔を見てられないのもあってイオの方を見た。
イオの顔はただ俺の瞳を見つめていた。
今までの自己嫌悪の代償を払い終えたそういう顔だった。
これでもう悩まなくて良いんだね、そういう顔。
死にたがりはお前の役目じゃないだろ!
「イオ!逃げろ!」
方法なんて思いつかない。
奇跡でいい。
あいつを助けてくれ!
そして、無残にも弾ける光の盾。
俺は見てしまった。
石の拳がイオの身体に直撃したところを。
その瞬間に溢れる土煙。
「あおいーーーー!」