立ちはだかる巨石
目の前に迫る石の拳。
俺たちに広がっていく亀裂は俺たち全員がわかっていた。
そして、こう言うときに苦労するタイプがいる。
「みなさん!ここで休憩してはどうでしょうか!お茶を用意しますよ!」
ルリが必死にみんなを落ち着かせようとしている。
11層で広がった俺たちの亀裂は14層の今でも拡大しつづけている。
連携のとれなくなってきている俺たちの登頂速度は昨日とは比べものにならないほどに遅い。
それに焦りを感じてか、みなそれぞれに急ぐ。
それが結果としてさらに遅くしていることにも気づいているが、誰がその悪循環をとめられるというのだろうか。
「そうですね。ここでお茶をしましょう。リンカお嬢様これをどうぞ。」
レオがルリに協力して落ち着かせようとする。
「じゃあ先行くね。ゆっくりついて来ればいいよ。」
そんな状況も無視して進もうとするヴェル。
いつものおまえらしくないよ・・・。
だからといって、原因の俺が何かを言えるわけではない。
イオもイオで黙って先に進んでいる。
こいつも俺のせいでこうなっているのだ。
俺に何かを言う権利などない。
「あっ!まってください!」
ルリが広げようとした道具を急いで片付ける。
レオとリンカも手伝いなんとかヴェルについていく。
俺はその姿を見ているだけだ。
結果、俺たちは16層で今日を終えた。
昨日と違って敵にあうかもしれない状況での夜は最悪の夜だった。
2人1組で見張りを立てることになったが、今の状況でどうすればいいのかわからない。
とりあえず休息がとれた人から代わるということで俺とヴェルが最初になった。
「かなた。」
背中合わせのヴェルが話しかけてくる。
「なんだ?」
いつもより暗いというか黒い声に少し驚いた。
「イオさん。必要なの?」
「どういう意味だ?」
「好きなように理解していいよ。」
「好きなようにって言われてもな。重要な戦力だ。」
「そう。」
それからヴェルの代わりにレオが現れるまで俺たちは何も話さなかった。
レオと俺2人。
「どうもかみ合わなくなってしまったようですね。」
「あぁ、俺のせいなんだ。」
本当に心配していることがわかる。
「そうなのですか?私には誰に責任があるとかそういう風な話とは思えないのですが。」
こういって大人はうやむやにするんだ。
そして、相談もなにもできなくなる。
今日も俺は何もできないまま次の日を迎える。
ーーー。
次の日の夕方に俺たちは19層についた。
19層はただまっすぐの道だった。
俺たちが登ってきた階段から向こうの階段への扉が見える。
そして、その通路の脇にならぶ石像。
これがゴーレム族というやつだ。
うかつに近づくと襲ってくる。
ただ、何体か場所の割りに石像の数が欠けている。
討伐されたのだろう。
ここは道の真ん中をそっと歩くことでゴーレムを回避するのが王道だ。
「これすごいかっこいいな!」
リルが石像をつついている。
なんでだ?・・・
答えは誰も注意しなかったから。
いつもならヴェルが言うはずの注意がないままここを通りすぎようとしていた。
「リル!」
動き出すゴーレム。
石の拳をぎゅっと握っている。
もうやるしかない!
左手の銃:ブラック・バートを発砲する。
しかし、そんなことではまったく反応しない。
ひたすら走る。
ゴーレムは緩慢な動きではあるが圧倒的な破壊力をもってリルの小さな体を消し飛ばそうとする。
リルが鞄をごそごそといじっているが、そんな簡単になんとかなるものではない。
例えばイオの光の盾で防ぐ。
例えばヴェルのワイヤーでリルをひっぱる。
そんな対応が必要なはずなのに、俺だけがこの状況に即反応している。
後ろからイオもヴェルも走っているが間に合わないだろう。
俺だけがあの拳とリルの間に入れる。
そういうポジションだ。
リルの隣についてリルを蹴り飛ばしたときには・・・。
目の前に迫る石の拳。
右手の剣を前に構え、左手の銃を剣に突きつけるように構える。
衝撃の瞬間に右手のトリガーを引き風系の属性を持たせ銃からも嵐を吹き荒らさせる。
そうして、できた風の盾でその拳を防ごうとした。
防ごうとしたが、風の盾は簡単に突破され石の拳が剣にぶつかり、その運動エネルギーを俺に伝えた。
救いもまた金なり・おしゃれは大事の前の小事・番外:ファランとユウ後編の三話に友達に描いていただいた挿絵を追加で入れさしていただきました。
見ていただければと思います。