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ラストライフ・オンライン  作者: 蜜柑
塔の探索
53/99

浸潤する癌

 結局、俺たちの亀裂はどうすることもできないまま朝が来た。


 正直一睡もできていない。

 体調管理も役目のひとつなのに。


 湾曲する心の表出はいつまでもイオを傷つけるだけで、答えをしるのを恐れてる。

 しかし、正解は目の前だ。

 今はそれに向けて進むしかない。


 朝から一言も言葉を交わさない俺たちにルリが心配した目を向けてくる。

 だが、どうにもならないんだ。

 今は・・・。


「かなた!目の前に敵!」

 そして、俺は心ここにあらずで敵の目前にくるまで敵に気づいていなかった。


 11層からの敵はその下の敵よりもだいぶ強かった。

 油断するとしにかねない。


 目の前にいるのは骸骨剣士といった風情の敵だ。

 カルシウムの充実した更年期前の硬い骨はそれだけで防具として成り立っていた。

 という冗談を言ってる場合でもない。


 槍と剣の敵がそれぞれ1匹ずつ。

 まずは回避に徹するしかない。


 槍を持った骸骨が6段突きを構えている。

 直撃すれば一回でしにかねない。

 だが、それを攻撃したくても、そいつの前には剣と盾で武装したさらに固そうな骸骨。

 

 強烈な縦の斬撃を左側によける。

 そして、お返しに魔法剣:月光を叩きつけるも見事に盾で弾かれた。


 弾かれた勢いで体勢を崩す俺に6段突きが狙いをつける。

 

 放たれる6本の突き攻撃。

 一段目を銃で受け流し、二段目にも銃での受け流しを成功させる。

 しかし、焦りが生み出した受け流しスキルの発動タイミングの失敗により三段目で銃まで弾かれる。

 

 まさに打つ手なし。

 必殺の四段目が迫る中俺は割りと安心していた。

 イオならここまで耐えれば割り込んでくれる。


 そう思っていた。

 不調なのは俺だけじゃなかったのに。


 迫る槍は止まることなく俺の右肩を捕らえた。

 痛みで前よりも重くなった剣を落としてしまう。


 さらに迫る槍、落とした剣と弾かれた銃は俺を守ってはくれない。

 俺の腹に突き刺さる。


 その衝撃で俺は吹き飛ばされ、結果イオの後ろに落ちる。


 そこで見たイオの顔が全てを教えてくれた。

 前にでれなかった自分の醜さを感じているのだ。


「イオ!何やってるんの!」

 ヴェルの珍しい怒った声だ。


 しかし、今はそれどころではない。

 二体の骸骨はまだ生きているのだ。

 生きている・・・?骸骨ということは死んでいるんじゃないか?

 割と落ち着いている自分の思考回路。

 危機にこそ俺は落ち着く自分を自覚している。


 だが、敵は待ってはくれない。

 イオに向かって再び攻撃してくる骸骨。

 イオがいくら聖騎士パラディンとは言え、2匹を相手するのは苦労するだろう。


 落ちた剣を拾ったほうが安全に戦えるが、俺は左手の銃を右手に構え走ってイオの前にでた。

 そして、槍の骸骨に向けて発砲する。


「かなたさん!自分のHPを見て考えてください!」

 レオの大人な言葉さえ無視して対峙する。

 こんな形でしか俺は何もできないから。


 しかし、一対一であれば敵にチャージさせる間を与えない分6段突きを放たせることもない。

 確実に敵の攻撃を回避して叩き込めばいいのだ。


 槍の突きをリスクの高い受け流しではなくステップで右に回避し、鉄鋼弾を敵の頭に打ち込む。

 頭蓋骨に穴が開くも、こいつらはその程度ではしなない。

 ダメージなど気にしないかのように構えた。

 そして、放たれたのは槍の基本の突きではなく、棍としてのなぎ払いだった。

 左右のステップではかわせない広い攻撃だ。

 予測できなかった俺はその対応に一歩遅れをとっている。


知覚加速コンセントレーション

 集中することで発動させ、敵の動きがゆっくりと見えるこのスキル。

 しかし、使って気づいた。

 別に自分が早くなるわけではないこのスキルでは迫る槍に対して受け流しの構えが間に合わない。

 確定した追撃を知っただけだ。


 迫る死。

 間に合わない俺の右手。


 しかし、迫る死はそこから速度を落とした。

 ワイヤーがまきつく槍をいつもどおりの勢いでふれないようだ。


 銃身を使って受け、上の方向へ受け流す。

 そのまま左肩で体当たりを骸骨の体に叩きこむ。

 硬い骨に体当たりした俺のほうがきっといたかったが骸骨は勢いでダウンした。

 そこに、火弾を撃ちこみ、火葬を済ませた。


 もう一体の骸骨はイオとレオが倒していた。

 イオも苦戦したのか肩で息をしている。

 

「イオさん。なんで前にでなかったの?かなたを殺す気?」

 少し落ち着いたような声でいうヴェルだがその言葉にはとげが含まれている。


「ヴェル。やめてくれ。これは俺のせいなんだ。」

 さっきまで表情で読み取れていたイオの気持ちがわからない。

 あまりに複雑に絡まった感情は、イオらしさを奪っている。


「なんで庇うの?かなただって死ぬのが怖いでしょ?」

 ヴェルの心は収まらない。

「誰だって不調はあります。私はイオさんのこれまでを見ていないのでわかりませんが、騎士としてはかなりの使い手だと今も感じましたよ。」

 いつものヴェルの役をレオがしているようだった。

 子供の俺たちから見ると大人っていうのは画一的に役目をこなしているようにも思う。

 そして、子供にはそれが大人との間の境界線を感じさせる。


 俺とイオの間にできてしまった亀裂は2人の間だけでおさまらない。

 俺たちを巻き込んで悪化させるのだ。


 


 

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