塔への侵入
俺たちはついに最終目標であるユグドラシルにたどり着いた。
たどり着いたといってもミーミルから橋でつながっているのでたいしたことはないわけだ。
しかし、その塔の巨大さは圧巻だった。
リルが後ろに倒れそうになりながら空を見上げている。
「どでかいぜ!スケールが違うな!」
確かに、見上げた塔は雲を越え、頂上を見ることはできない。
「それに広いな!」
確かに、東京ドームがなんこかは入りそうな大きさだ。
俺たちの目の前には大きな扉。
そこで俺たちは止まった。
「かなたさん。今回の目的の方の名前はなんというのですか?」
レオが今回の登頂の意味を確認するようにいった。
俺やイオであれば姉さんを見間違えることはないだろうから名前などたいして気にしなかったが、確かに大事なことだ。
だが、その質問に答えられるのは氷の魔女についてユグドラシル攻略に関わっている人と話したヴェルだろう。
ヴェルであれば抜け目なくそう言うことは聞いているはずだ。
「ヴェル。氷の魔女の名前わかったのか?」
「うん。ノルンさんだって。」
聞いたことがある響きだが、俺が生まれてずっと一緒だった姉さんの名前は氷花しかないと思った。
それ以外はあまり似合わない。
「ところでリル。」
「なんだ?」
空を見上げていた顔が俺の顔を見上げている。
「その鞄はなんだ?」
パンパンにはった鞄を背負っている。
「食料だ!あとは秘密兵器!」
自慢げに答える。
「連れて行かないぞ?」
「なんでだよ!俺は使えるぞ!」
怒り出しても可愛い。
弟に欲しいな。
「お兄ちゃん。あぶないことはやめてよ。」
ルリが姉であるべきだったな。
しかし、その話で困ったのはリルでもルリでもなくレオのようだった。
「かなたさん。私はリンカお嬢様を連れていきたいのですが。」
執事の後ろに隠れて服を握って話さない女の子を見る限り、レオの頼みというよりリンカの希望なのだろう。
そして、これに断ったらレオも置いていかなければならないのだろう。
「仕方ない全員でいくか。」
「おう!」
嬉しそうにとびはねるリル。
そして、俺は最初の俺を思い出した。
こいつは危険なところにいくのは怖くないのかな。
まあ、聞いてもしかたのないことだと判断し、ユグドラシルに侵入することにした。
大きな扉が重そうに開く。
俺たちを危険な罠にはめるかのごとく。
ーーー。
ユグドラシルの敵はそこそこに強かった。
大きなクモの敵がでたときなんかは大変だったな。
俺は左手が使えなかった。
攻撃でやられたとかじゃなくて、イオが抱きついてきて動かせなかったのだ。
「こないでよー!」
という可愛い姿が見れたのでまぁいいんだけどな。
本当に大変な敵はアーリマンだった。
巨大な目玉に羽と手脚がはえた悪魔族の敵。
「みんな。気をつけて。敵の目を見ると徐々に石化するからね。」
今のメンバーで石化を治せるものはいない。
かなり重要なアドバイスだ。
「目を見ないでどう戦えばいいのよ!」
イオの言うことも正しい。
敵の目を見ることで次の行動がよめる。
それができないということは回避というところで不利だ。
「こんなこともあろうかと!これをつかえ!かなた!」
こんなとこまで予測するところは優秀だ。
アーリマン得意の雷撃魔法を何とか勘でかわし渡されたメガネを装備する。
「すげえぜこれ!目の前が真っ暗で石化しない!ってなるか!」
地面に叩きつけ破壊。
「おま!それ2万かけたんだぞ!」
無駄遣いもはなはだしかった。
しかし、敵の動きにも慣れてきて敵の手脚の動きから詠唱が予測できるようになり、回避も多少は楽になった。
攻撃に関しては、目玉があるであろうところにブラック・バートを発砲する。
新武器、魔法剣月光を使って見たいが瞬間威力系のこれは当たる瞬間を見られない今ではちょっと使いづらい。
まあ、一匹のアーリマンには十分対処できるようになった。
しかし、9層から10層にあがる階段の前に広がる広めの部屋には、アーリマンが5匹もいた。
「どうするの、かなた。これは迂回できないよ。」
どうするもこうするもやるしかない状況だ。
「俺が突撃するから支援頼む。」
俺は地面を蹴り疾走する。
一斉に俺に集まる視線。
下を見ながら走るしかない。
「かなた!合体魔法がきてるよ!」
ヴェルの緊迫した声が後ろから聞こえる。
「合体魔法!?」
「いいから下がって。」
バックステップしながら、敵に狙いをつけずに発砲する。
それが偶然一匹のアーリマンの目に直撃して詠唱中断させたことが俺の命を助けたのかもしれない。
俺の目の前の空間に大量の雷撃が落ちた。
発光するそれは俺の視力をも奪おうとする。
そして、再びアーリマンの姿を見たときには、今度こそ5匹の合体魔法を詠唱していた。
この距離ではとめにもいけない。
「やばいぞ!4匹でアレじゃ5匹は確実に死ぬ!」
緊張した声がでてしまう。
そんな中、みんなをおちつかせるようなこういう危機にも場慣れした声が響いた。
「イオさん。雷撃の剣技は使えますか。」
「使えるけど、この距離じゃほとんどダメージないわよ。」
「それでは、お願いします。」
その声は高圧的なわけではないけれど、そうするべきだと理解させてくれる大人な声だった。
「じゃ撃つわよ!ライトニング・セイバー!」
イオの剣から放たれる雷撃。
それは敵に衝撃を与えるが、詠唱を中断させるようなものではなかった。
「どうするのよ!」
「こうします。」
その瞬間、そこにあったはずの執事が消えた。
そして、地に落ちる5匹のアーリマン。
全ての敵の目玉に3発の拳の貫いた跡が残る。
その向こうで石化した執事がすっと立っていた。
「何をやったんだ?」
時間の経過で石化のとけたレオに聞いて見た。
「ナックルストライカーの特技雷駆を使って、イオさんの電撃を走らせていただきました。さすがに光速で全部の敵を叩き落とすのは腰にきましたね。」
今だから謝ろう。
茶の似合う定年間近のじいさん警察と思って悪かった。