LL Girls Side ファランとユウ 後編
朝、起きて隣で眠るユウの顔を見て思った。
今日こそ私の想いがどれほどなのか答えを出して、ユウの返事を聞こう。
それにしてもぐっすり寝ている。
気持ちを確かめたくて私はユウを見つめた。
肩まで伸びるストレートな髪。
少し残念な胸。
気の強さが現れた顔立ち。
そして、女性らしい柔らかそうな唇。
きっとキスすれば私の気持ちはわかってしまうだろう。
だから、控えめに頬にしてみようと思った。
そっと顔を近づける。
そこでユウが笑いをこらえきれなくなった様に笑いだした。
「あはは。ファラン何しようとしてたの?」
「なっ何もしてないわ!」
「そう?」
そう言って人の胸に手を伸ばすこの人はどこのセクハラおやじだろう。
ーーー。
今日はユウの仕事を手伝うことになっている。
一緒にカルムに来た少女が調理師のクラスをあげるのに葡萄を採集したいらしい。
その護衛で荒野の辺境まで行くらしい。
ユウにとってここらへんの敵はそれほどリスクのあるものじゃなくなっている。
採集も無事終わり少女は鞄に入らなくなった葡萄を抱えて歩いている。
山のように積み上げた葡萄を見ながら幸せそうに歩く姿が可愛らしい。
だけど、私はユウに言っておきたいことがあったのでユウの方を向いた。
「ねぇ。ユウ。」
「なにさ?」
槍を片手でくるくると回しながら歩く姿は、細めの男の子にも見える。
「私の話を聞いてくれる?」
「いいよー。それって朝の続き?」
ニヤニヤとするユウ。
そして、私はこの世界で終わらせたくない思いを伝えようと思った。
「そうよ。それでさ、ユウって現実だと何の仕事してるの?」
恥ずかしいのを我慢して肯定してみると予想以上に気が楽になった。
「私?私は専業主婦よ。」
青ざめる私。
体温が急激に下がるのがわかる。
「あは。冗談だよ。未婚の家具デザイナーよ。ファランは?」
酷い冗談だよ・・・。
「もう・・・。私は医学系の大学生。精神分野志望だけどね。」
「わお。頭いいんだ。」
「そんなことないよ。それでさ・・・。」
「うん?」
鼓動は早く大きくなっていく。
私はこの世界における禁断に触れる勇気を深呼吸することでやっと手に入れた。
いつ帰れるかもわからない世界。
セカンドライフとして現実と切り離された世界。
そんな世界での禁断へ。
「ユウの現実での名前ってなんて言うの?」
「おー。それを聞いちゃいますか。いいよー。教えてあげるからよく聞きなさい。私の名前は浅川夕凪。改めてよろしくね。」
禁断を越えた私の鼓動はやっと落ち着きはじめる。
しかし、あまりにあっさりした返事に、私が越えたと思う禁断の線はユウにとっての禁断ではなかったのかもしれないと心配になった。
だが、そうして2人の世界にいたせいで私たちは重い責任を取らされた。
「それでファランはなんて言うの?」
「私は神河か
「きゃっ。」
少女の驚く声。
目の前が葡萄で見えなくなっていたせいで、地割れに気づかなかったらしい。
ぽっかりと空いた闇に飛び込もうとしている。
その時、私は気づけば飛び込んでいた。
そんなことをしなければ私は1番大事なものを失わなかったのかもしれない。
でも、正しいことをしようとするユウと一緒にいた私にそんなもしもの話など意味がないことはわかってる。
ユウを泣かせたくなかった。
理由はそれだけ。
そして、右手で掴んだその子を外に向かって投げた。
「ユウ!受け止めてあげて!」
でも、それは叶うはずがなかった。
だって、私の左手をユウが掴んでいるんだもの。
「ユウ!」
「一緒なら怖くないよ。」
そして、私たちは一緒に死ぬはずだった。
だけど斜面を滑り落ちる間に死ぬことなく底にたどり着いた。
何かの部屋のようだった。
「死に損なったね。よかった。まだ生きてファランが見られるんだから。」
けど、安心するにはまだ早かった。
バチッ!
電撃の弾ける音がした。
「エネミー確認。デウス・エクス・マキナ起動。」
部屋が赤い光で染まる。
そして、戦車のようなそれが現れた。
私に向けて照準する主砲。
そして、火を吹く。
「ファラン!しゃがんで!」
反対側から吹き荒れる風が火炎を押しとどめるも燃え上がる威力が増している。
だが、なんとか風で守り切り火炎が止まった。
その隙に槍を叩き込むがはじかれてダメージがほとんど入らない。
普通にやっても勝ち目はないとわかる。
「ファラン。向こうの扉が見える?」
「うん。戦車の向こう。」
「逃げるよ。」
「わかった。」
しかし、それは次の瞬間叶わなくなった。
砲塔の上の銃座が撃ってきた。
それは、私でも見れるほどに遅い攻撃だった。
だから安心してバスケットでガードする。
それが失敗だった。
バチッと身体に電撃が走り、私の身体は立ったまま動けなくなった。
「ユウ!逃げて!」
「置いていけないよ。」
再び主砲が私を狙う。
そして、私の前に出たユウが再び風で防ぐ。
もうMPもそう残っていないだろう。
しのぎ切った後、ユウは後ろを振り返った。
「目を閉じて。」
もう2人で死ぬ覚悟を決めるのだと思った。
だから、そっと私は目を閉じて真っ暗な世界に逃避した。
そして、次に感じたのは私の唇にユウの柔らかい唇が重なる感触だった。
目をあける勇気がない。
ユウの香りがする。
そして、そっと離れていくユウ。
それでやっと目を開く事ができた。
「やるよ!」
私に向けて槍を構えるユウ。
ユウの槍で死ぬのも悪くないと思う。
「ウインドフロウ!」
凄まじい風が私を吹き飛ばす。
戦車の向こうの扉に向かって・・・。
私はもう無くなったと信じていた。
ユウの自己犠牲。
それは簡単に消えるものでは無いと知らず。
私にだけはそれが強くなっていくものとも知らずに。
そして、扉の向こうに吸い込まれ出た私の前で、私を開けて通した扉が自動で閉まる。
直後、麻痺が解け扉にすがるももはや微動だにしない。
「開いてよ!ユウが死んじゃう!」
そして、かすかに聞こえる弱々しい声。
「ファラン・・・。名前は・・・。」
「諦めないでよ!」
「私はファランの中で生きてるよ。私はもう無になったりしないの。」
「そんなのやだよ!」
私はもうユウ無しでは生きられないのに。
「ファラン・・・。危ないことしちゃダメだよ。ちゃんと生きて現実に帰って。ファランだったら絶対幸せになれるから。それまで私たちの家をお願いね。」
「ユウ!夕凪!」
「あはは。その名前で呼んでくれちゃうんだ。あんまり私の亡霊に心ひかれんなよ。私はさ。ファランが幸せだったら嬉しいからさ。こっちに来いっていう私がいたらそれは偽者だよ。」
その後、いくら呼びかけても返事はなかった。
私は結局、名前さえも言えず1人になってしまった。
私たちはただの親友なのかそれ以上なのかもわからないまま。
残ったものは私と一緒に吹き飛ばされたユウの眼鏡。
それをそっと耳にかける。
生きてたころにユウがよくしていた様に左手の中指で調整してみる。
今日から私がファランでユウなんだ。
「ユウには悪いけど仇とるよ。」
そして、私もユウがいる世界に行こう。
口に出したら許されないと思ったから心の中でとどめた。
ねえ。ユウ。そうしたら私たちの出会いは不正解だったって嘆く?
ーーー。
それから私はユウと同じ様にこんな世界で誰かを助けようとする少年に会う。
素直じゃないけど困ってる人を助けずにはいられないそんな子。
そして、その子たちの協力を得て、デウス・エクス・マキナの破壊に成功する。
ーーー。
1人になった部屋でユウの槍をぎゅっとにぎる。
ユウの香りがする。
「ユウ。良い子にあったよ。すっごく捻くれてるの。素直じゃないくせにくさいこと言える子でさ。ユウに会う前にあってたらやばかったかも。でも、やっぱりユウを忘れられないよ。現実に戻ったらユウの遺品を1つぐらいもらってもいいよね?結局、言葉にはできなかったけど。私は夕凪を愛してるし、夕凪も華菜を愛してたよね?」
それから私はユウのことを親友と呼ぶのをやめた。