お姫様は誰
ヴェルは再び他の街へ行くと言って去っていった。
あいつのことだから姉さんの情報を集めにいったのだろう。
お節介なやつだ。
ーーー。
ファランの家に帰るとイオが玄関で待っていた。
「ほら。準備しておいたよ。」
差し出される荷物。
ミーミルまでの準備だろう。
「行かない。」
きっと色々いってもわからないやつだからはっきり言ってやった。
「なんで?シスコンらしくないじゃない。」
それでもわかってくれなかった。
「なんでって言われてもな。姉さんじゃないかもしれないし。」
「氷花さんでしょ。それに違うとしても確認したくないの?」
断定できるほど姉さんはわかりやすい人間だ。
ただし、身近な人間だけに。
「まぁな。誰かが勝手にクリアしてくれるだろ。」
なんともかっこわるい返事だが、それがこの世界にいる普通の人間だろ?
沈黙になる理由がわからないな・・・。
「かなたの考えはわかったわ。でも、私の顔を見てよ。」
そう言われて気づいた。
俺は最近イオの顔を見て話すことができなくなっている。
俺に責任はないと言っておきながら何かに負い目を感じている。
それでも、荒野のボスとの戦いで死にかけたことやイオを失いかけたことを思い出すと怖いのだ。
この思いは誰にもわからない。
そんな気持ちを見越したかのように・・・。
「ねぇ。何を思っているのか教えて。私にも不安を共有させてよ。」
そして、その言葉に俺は涙をこらえきれなかった。
ついに、弱い自分を吐露してしまった。
現実に帰ったらもう葵の顔も見れねえよ・・・。
「武器を見るのも怖いんだ。あの日の事を思い出してしまって。」
「そうなの…。ごめんね。みんなかなたを追い詰めたんだね。」
やっとわかってくれる人がいた。
誰もわかってくれないと信じきっていた…。
がちゃり・・・?
「それはPTSDかもしれませんね。関連するものを見ることでフラッシュバックしてしまう。」
ファランが扉の影から顔を出している。
扉の向こうできいていたのか…
全然気づかなかった。
まじで恥ずかしい・・・。
「ファラン。仕事終わったの?」
「ちょっと気になってしまって。少しだけ帰ってきてしまいました。けれど、イオさんにお任せします。それでは!」
っと去っていった。
気をつかう気があるのなら聞かなかったことにしろよ…。
俺は今度こそ本当にいないか確認に何度も扉を開け閉めして確認した。
鍵を掛けたり箒を挟んだり二度とあかない様に扉を融解させ壁にくっつけたりした。
「もうダメだ。恥ずかしさで死ぬ。」
「大丈夫。」
「何が・・・。」
「何かが・・・。」
イオの優しさが痛い。
「そうか・・・。」
しかし、俺の不安を表出してみて、自分の知らなかった不安に気づけた。
それに、恥ずかしい話だがイオが知っていてくれることで不安が薄くなった気がする。
「じゃあ、こうしましょう。」
「ん?」
「かなたが死んだら私も死ぬ。私が死んだらかなたも死ぬ。」
「なんでだよ!?」
びっくりしてこけてしまった。
「不安なんでしょ。どこでも私が幼馴染になってあげる。」
なんてグロデスクな約束だ・・・。
こんな苛烈な奴が俺の幼馴染ですよ・・・。
「軽々とよくそんな事が言えるな。」
「かなたのこと好きだからね。」
平坦脳波---。
俺は脳死したかもしれない。
「よっぽど男らしいよ。葵は。」
「そうね。」
微笑む顔がとても素敵だった。
恋の経験がなかった俺には確信が持てないけど、俺も好きなのかもしれない。
それでも、「かも」だ。
確信はない。
「俺はまだ返事ができないな。ただ・・・。一緒に来てくれないか?」
「守ってあげるわ。お姫様。」