無力な執事
「ねぇ、私の執事。」
この愛称で読んでくる方は他でもない。
私の小さな力で守ることのできる唯一の人、リンカお嬢様です。
ロリータファッションというのでしょうか?
私のような人間にはよくわかりませんが、その様な格好を好むようです。
自己紹介が遅れました。
私は5人目の自殺志願者ことレオニクス・ルテナントと申します。
クラスはナックルストライカー。
得意な属性は雷撃となっています。
私のような小さな人間がこのような記録を残すのはとても恥ずかしいことですが。
役目をもってこの世界に来たつもりの私としてはこれは仕事の記録といったところでしょう。
「聞いてるの?レオ。」
「なんですか?お嬢様」
差し出される手には執事の服、一式が揃っていました。
「きるのですか?」
うなづくだけです。
「初老の男性には少し派手ではありませんか?」
「そんなことない。私のカスタムメイドだもん。」
確かに、リンカお嬢様は見事な裁縫職人としてのランクを持っておいでです。
「それではありがたく頂戴して。」
「今すぐ着て。」
「・・・かしこまりました。」
そして、完成したのが、白髪のウォーウルファー初老執事でございます。
なぜこのようなことをしているのか・・・。
それにそろそろ答えなければいけないころでしょう。
ーーー。
「ゴブリンがそっちいたっぞ!」
「いやぁ!」
「逃げて!」
「やめてー!」
「痛い。痛いよ。」
「どうにかしてよ!あなたたち武器をもってるんでしょ!」
「俺だって死にたくねぇ!」
私が遅れてこの世界へ来て、できることなどなく無力さを実感しているころ。
はじまりの街から他の街へ移動しようとする集団がいました。
ゴブリン族に襲われ半分の人間が死んだころ私はそこに出会いました。
状況は最悪。
それぞれに分散してしまい発見されゴブリン族は増えていく一方でした。
そんな中で、一人の女性が必死でリンカお嬢様を守っていたのです。
といっても、その方は戦闘のクラスではなかったのでしょう。
音や光で相手をおびえさせるのが精一杯でした。
「そこの方!こちらへ!」
私はその2人を背中にかばい、ゴブリン族に対峙しました。
他にも、助けを求めている人はいましたが、私にとってはこれが精一杯だったのです。
そして、退治するゴブリン族2匹。
剣を構え飛び込んでくる一匹目に対して、スキル:スウェーを利用し、ぎりぎりで剣を避けながら、左手でジャブを4発叩きこみ、浮いたところで右ストレート。
これで一匹目を処理しました。
2匹目も飛び込んでくるのでカウンターの右を叩きこみ処理。
しかし、その時には私と2人しか生き残ってはおらず。
数十匹というゴブリンに囲まれていました。
「おじさんだけでも逃げてよ。」
そんな心配をさせることが大人として悔しかった。
子供が危機にさらされず自由に生きていける社会を作るのが大人の責任です。
「心配しないでいいですよ。全て私がやっつけますから。」
何匹ものゴブリンを叩きのめしました。
そして、もう少しでなんとかなるかと思った時にそれは起きてしまった。
「キャー
叫び声が聞こえるまで気づけなかった。
ゴブリン族が私ではなく女の子に対して弓を放ったのを。
それでも、女の子は死ななかった。
守っていた女性が代わりにそれを受けたから。
「この子を連れて…逃げてください…。」
最期の言葉がそれでした。
私はたくさん消えていった人の命と願いの中で、その願いをかなえることだけで手いっぱいの小さな人間でした。
「私の背に乗ってください。」
「うん…。」
!電光石火!
電撃のように突進する一撃で包囲を崩し、私はひたすら街まで逃げました。
しかし、街に帰った所で彼女の心は死んでいたのです。
私は必死に彼女の心に再び火をともそうとした。
この命だけでも救えなければ私が生きている意味がないと思ったから。
そして、その命がもらした言葉が
「私の執事として、私と一緒にいてください。」
それでした。
私はそのために、いつまでも彼女の執事です。