止まりだす時間
「よぉ!どうだったよ!俺様の秘密兵器は。」
ファランの家。
リルが玄関で待っていた。
「リルさんのおかげで大勝利です。」
ファランがリルを抱き上げて頬をすりつけている。
ペットのような扱いだが・・・羨ましいぞ!
胸の間に挟まってるじゃねぇか!
「赤い方は最悪だったけどな。」
悔しかったので文句を言ってやった。
「おい!ちょっとやめろ!話づらい!」
なんとあの幸せがわからないとはなんたる不届き…。
「ふむ…おかしいな。機械系の敵には最強兵器だと思ったんだが。」
「敵にあたってころがっただけだぞ。」
・・・。
「何言ってんの?ピン飛ばした下にボタンあっただろ。押すとびびっとEMPが発動して敵が止まるって最強兵器だぞ?」
「なんで手榴弾の形してんだよ・・・。」
「ロマンだろ!」
こいつの心意気が毎回良いって言ったのは間違いだった。
っといつもどおりの俺を演じてみたが、イオは黙って部屋に入っていってしまった。
「イオさん。どうかしたんですか?」
ルリが心配そうに聞いてくる。
「ちょっとね・・・。でも、かなたがなんとかするから大丈夫だよ。」
ヴェルにおしつけられた。
おしつけられたわけじゃなく俺の責任なわけだが・・・。
「でも、私イオさんにいつも支えてもらってるだけでこんな時にしか役に立てないから。」
そういってイオのいる部屋に向かおうとする。
「待ってくれ。まずは俺の番だ。」
最初にいかなければいけない気がした。
「かなた。素直にならなきゃダメだよ。」
そんなヴェルの後押しを受けて・・・。
「イオ入っていいか?」
「どうぞ」
そっと扉をあけて入るとベッドの上に黙って座っていた。
イオがぽんぽんと自分の隣を叩く。
そこに黙って座るとイオの方から話し始めた。
「もうやめてもいいのかな?」
「なにをだ?」
「戦うこと。」
「誰かにさせられてることじゃないだろ。」
「そうだけど。」
「俺もやめてほしいしな。」
「知ってる。」
イオがうつむいてしまう。
「俺もやめたいな。」
「え?」
「葵の前でしか言えないけどさ。俺だって死ぬのが怖い。」
「うん。」
「今回だって死にかけたしな。自分だけならいいって思い込んだりもしたけど、最初から俺は意気地なしだ。」
「幼稚園のころからそうだよね。」
「そう言われても何も言い返せないな。」
「じゃあ、なんでこんなとこ来たのよ。氷花さんなら自分で帰ってくるでしょ。」
「そうだろうな。ただ、役に立ちたいって思ったからさ。」
「そう・・・。」
「でも、今の俺を支えてるのは間違いなく葵たちだ。」
・・・。
「生きて俺を支えて欲しい。俺が役目から逃げないように。」
「そうね。気をはって生きてるのも辛くなっちゃった。」
「ファランと一緒にここにいな。」
「少しぐらいお世話になってもいいよね。」
こうして俺の役目は終わった。
葵はきっとイオとしてここで生きていくだろう。
俺がこのゲームを終わらすと信じて。
だから俺はその期待に答えるだけだ。
しかし、俺はこの日から停まってしまう。
時間も思いも。
ただ、朝がきて昼がきて夜がくる。
なのに俺の時間はまわっていない。
ただ、この街に存在し続けた。