涙の花
少年は言いました
「母さま どうして逝ってしまったの」
少年は言いました
「神様 どうしてぼくではないの」
少年は泣きました
届かない空を見上げて
母さまの吸い込まれた 蒼く果てしない空を見上げて
ただただ涙を流しました
涙は地面に落ちました
そこから花が生えました
小さくて可憐な花
淡い水色の花
それは 母さまが一番好きだった花
少年は目を丸くしてその花を見ました
その目からさっきよりも大粒の涙がたくさんこぼれてきました
「母さま、母さま」
少年は何度も、何度も呼びました
ずっとずっと呼び続けました
けれども 母さまは帰ってきませんでした
少年が呼ぶ度に、花はまるで、母さまがうなずいているかのように小さく揺れました
でもやっぱり、母さまは帰ってきませんでした
目がはれるほど泣いた少年は、それでも目をうるませたまま、ゆっくりと立ち上がりました
そして小さく小さく「母さま、待ってて」とつぶやくと、どこかへ走って行きました
彼はやがて小さな袋をたくさん抱えてもどってきました
花のまわりを歩き回り、何かを始めました
夜遅くまで、それは続いていました
翌日から少年は、毎日毎日、母さまの花に水をやりに行きました
その日あったこと、嬉しかったこと、悲しかったことも全部、花にむかって話しました
その語る言葉は、生きている母さまに話をする時と、何も変わりません
そして全てを話し終えると、少年は決まっていつも「母さま、もう少し待っててね」と言ってにっこりするのでした
ひと月たち、ふた月たち、太陽は毎日昇り、沈み、少年は毎日花やそのまわりに水をやり、その日の出来事を話しました
そうして、花の生えた日からむ月がたったころ―
「母さま、見て!」
花に水をやりにきた少年は、はずんだ声で言いました
少年の前には、母さまの花を囲んで咲き乱れる花、花、花
少年はあの日、母さまの花のまわりに、たくさんの花の種をまいて、今日まで育て続けていたのでした
たくさんの花に囲まれて、幸せそうに笑う母さまが見えるようで、少年は胸がいっぱいになりました
そして知らず知らずのうちにつぶやいていました
「もう、さびしくないよ…」
それは、母さまのことか、それとも少年のことなのか
少年の上には、いつも彼を見守っていた母さまのような 優しい色の青空が、どこまでもどこまでも広がっていました