39.番外編 旅の終わり、そして始まり sideルカ
sideルカ
幼い頃のテオ様が、しゃくり上げるように泣いていた日々を、私は今も鮮明に覚えている。
「リイナと、もう会えなくなってしまったんだ」
私の知らないその少女は、テオ様が「かわいい」と何度も口にし、「僕に懐いてるんだ」と、まるで宝物のように自慢していた子だった。
誰よりも真っ直ぐで、繊細だった、あの頃のテオ様。
その小さな胸に、どれほど深く悲しみが刺さったのか……想像するたび、胸が締めつけられる。
あの日、テオ様はぽつりと告げました。
――「旅に出る。商人になりたいんだ。そして、リイナの代わりにたくさんの物を見るんだ」
その言葉は、子供が抱くにはあまりにも重たくて。けれど確かに、大人のような覚悟が、その瞳には宿っていた。
どうか――テオ様の選ぶ道が、孤独で終わりませんように。
その横顔を見つめながら、私はただ、心の中で神に願っていた。
それから共に旅を重ね、いくつもの季節を越えた。野盗と剣を交え、焚き火の灯に身を寄せながら夜を明かしたこともあった。それでも、どれだけの距離を歩いても、テオ様の心には、いつも埋まらない“何か”があるように見えた。
――そしてある日、テオ様が拾ったという聖女。
その名は、偶然か、運命か……リイナ。
まさか、リイナ様が、テオ様の“あの子”だったなんて。
今、目の前で、テオ様がそのリイナ様と肩を並べている。ずっと空席だった場所に、ようやく、誰かが帰ってきたようだった。
笑い合うふたりの姿が眩しくて、私はふと、微笑んでしまった。
「……テオ様、よかったですね」
ぽつりとこぼした私の言葉に、テオ様は照れくさそうに眉をひそめ、こう返した。
「ああ、そうだな」
ずっとそばにいた従者として、主の背を見つめ続けた者として、心からの言葉を――。
「ルカ。ありがとうな」
その声とともに、テオ様が私の肩を軽く叩かれた。
驚いて顔を上げると、そこにはいつもの気取らない笑顔。けれど、その微笑みは、どこか優しげな色を帯びていて……私は思わず、目を伏せてしまった。
「私は、ただ傍にいただけですよ」
「だからこそ、ありがとう、なんだよ」
テオ様は、私の肩にそっと腕を回された。
ふと、リイナ様と目が合った。
彼女は静かに、けれど確かな微笑みをたたえて、ゆっくりとうなずいた。
長く続いた旅の中、私はずっと、主の背を追い続けてきた。これからもきっと、その背を見つめて歩んでいくだろう。
――けれど、もしその隣に寄り添う誰かがいるのなら。
私はもう、この肩に背負ってきたものを、少しだけ降ろしてもいいのかもしれない。
風が優しく吹き抜ける草原の中、私はゆっくりと空を仰いだ。
あの頃、テオ様が泣きながら見上げていた、あの空を――今、晴れやかな心で見つめながら。
最後までお読みくださりありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))
途中、気分転換にめちゃくちゃテンプレのショートショートを書いてみたので、同時に投稿しました。
タイトル「貴族ごっこは、そろそろ終わりですわね」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/178905747/803972913/episode/9851559
もしよかったら、お読みください。
力尽きたので、「世間知らずの聖女様ですので」のお礼は後日改めて・・・・・m(__)m




