新たな世代 後編
翌朝、子供たちは悟娘の家の庭に集まり、昨日の冒険について話し合っていた。
「空くん、昨日は本当にすごかったわね」
明が尊敬の眼差しを向ける。
「そうじゃ!あんなに強いとは思わなかったのじゃ」
日天も同感だった。
「私もびっくりした!空ってあんなにできるんだね」
悟娘も感心していた。
しかし、当の空は困惑していた。
「え?僕、昨日はずっとお母さんと一緒にいましたよ?冒険なんて行っていません」
子供たちは顔を見合わせた。
「でも、確かに一緒にいたじゃない」
明が首をかしげる。
「変じゃのう...」
星天も困惑していた。
その時、物陰から孫悟空が現れて説明した。
「実は...ゆうべの空は俺だったんだ」
「え?」
子供たちは一斉に振り返った。
「俺が変化の術で空に化けていたんだ」
孫悟空が正体を明かすと、子供たちは唖然とした。
「先生が?」
「お父さんが?」
「なぜじゃ?」
星天が尋ねる。
「昨晩星天たちが誘いに来た時、お前たちがこっそり冒険に出かけるだろうと思って、心配で付いて行ったんだ。だが、お前たちの自主性を尊重したくて、影からサポートしただけさ」
孫悟空の説明に、子供たちは複雑な表情を見せた。
ーー遠足の引率気分だったな。
星天のリーダーシップ、日天と悟娘の優しさ、明の冷静さ。子供たちの成長を見守るのは、思いのほか楽しい体験だった。
「つまり...私たちは見守られていたってことですか?」
明が確認する。
「そういうことだ。危険を冒したことについては褒められたことではないが、お前たちが困難に立ち向かおうとする姿は立派だった」
孫悟空は子供たちを褒めた。
「特に明、お前の年長者としてのふるまいは立派だったぞ」
明の頬が赤くなった。昨日、空だと思って頭を撫でた相手が、実は悟空先生だったとは。
星天はむくれた顔で孫悟空に向かって言った。
「次は最初から一緒に来てほしいのじゃ」
「ああ、今度は堂々と付き合ってやる」
孫悟空が笑うと、子供たちも笑顔になった。
しかし、悟娘は何かを思い出したような顔をしていた。
「そういえば...」
悟娘は駆け足で家の中へ向かった。
「お母さん!昨日、お父さんが星天の邪魔をしたの!」
一足早く家に戻っていた空と一緒に本を読んでいた月人は、悟娘の報告を聞いて微笑んだ。
「お父さんが?」
「そうなの!星天に、空のふりをして『お姉ちゃんはお父さんが好きなんだよ』って言ったの!」
孫悟空が慌てて現れた。
「ちょっと待て、悟娘!それは...」
「お父さんったら、ずるいよ!」
悟娘が頬を膨らませる。
月人は優しく笑いながら説明した。
「お父さんはまだ悟娘と一緒にいたいのよ。お父さんは悟娘が大好きだから、他の人に取られるのが寂しいのね」
「でも私はまだ子供だよ?」
悟娘が首をかしげる。
「お父さんから見れば、悟娘はもう立派な女性なのよ」
月人が孫悟空に目配せをして微笑む。
孫悟空は照れくさそうに頭を掻いた。
「まあ...そんなところかな」
「お父さん、私はお父さんが一番好きよ」
悟娘が孫悟空に抱きついた。
「でも、星天とも仲良くしたいの」
「分かった、分かった。今度からは邪魔しないよ」
孫悟空が苦笑いしながら悟娘の頭を撫でると、月人は温かい笑顔でその様子を見守っていた。
一方、空は月人の膝の上で静かに本を読み続けていた。
「お母さん、この文字の読み方は?」
「これはね...」
平和な親子の時間が、いつものように静かに流れていた。
こうして、子供たちの初めての冒険は、思いがけない形で大人の愛情に包まれた体験となったのであった。
子供たちは、本当に色々なことをやらかしたり、成し遂げたりします。けれど、どんな子供も、成長したい、今より良くなりたい、ともがいているように見えるのです。
植物は光に向かって成長します。暗い箱に閉じ込めて、穴をあけると光に向かって歪んでゆきます。箱を取り除いてやる、穴を少しでも広げたり、増やしたりしてやる、外から声をかけてやることが、社会のつとめだと思います。
これで完結にしようと思います。
お読みいただき、ありがとうございました!




