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三蔵 18歳 弁論大会

 ついに弁論大会の日がやってきた。

 先日十八歳になったばかりの三蔵は、朝早くから身支度を整えていた。


「三蔵様、緊張していますか?」


 猪八戒が心配そうに尋ねる。


「...不思議と心は落ち着いています」


 三蔵は窓の外を見つめながら答えた。約十年間の旅の集大成となる日。自分が学んできたこと、体験してきたことの全てを込めて臨む覚悟だった。


 大会会場となる大講堂は、想像を遥かに超える規模だった。六千人もの高僧たちが席を埋め尽くし、その威圧感は圧倒的だった。


「すごい人数だな...」


 孫悟空が呟く。


「三蔵、大丈夫だからな」


 沙悟浄はまるで自身に言い聞かせるかのように三蔵を励ました。


 しかし、三蔵の表情は落ち着いていた。


「大丈夫です。僕には伝えたいことがあります」


 開会の儀式が終わり、いよいよ弁論が始まった。

 グループ毎にさまざまなテーマが与えられ、議論が重ねられる。


 三蔵は猪八戒や沙悟浄との特訓を思い出しながら、冷静に論客を論破していった。


 鍛え抜かれた弁論術はもとより、三蔵の言葉は、知識と経験、愛と真理に基づいていた。また、正論で一方的にやりこめるのではなく、時には相手の思いを尊重し、理解を示した。


 敗退した高僧達は、皆、素直に負けを認めて、三蔵に敬意を表した。


 そうして、三日三晩続いた弁論大会を、三蔵は勝ち進んだ。


 最終日、勝ち残った少数者による演説が行われた。


 参加者は順番に壇上に上がり、それぞれの論題について発表していく。


 そして、ついに三蔵の番がやってきた。


「唐国より参りました三蔵法師です」


 三蔵が滑らかな天竺語で挨拶すると、会場がざわめいた。年若い外国人でありながら、その美しい発音に皆が驚いている。

 多くの参加者が準備した原稿を読み上げる中、三蔵は何も持たずに語り始めた。

 三蔵には、社会に伝えたい思いがあった。それは、魂から自然に生まれ出る言葉でなければ言い表せないものであった。


「本日、私がお話しさせていただくのは『慈悲による共存社会の実現』についてです」


 三蔵は堂々と論題を発表した。


「仏教の根本的な教えである慈悲の心。これこそが、文化の異なる人々との共存を可能にし、多様性に満ちた平和な社会を築く鍵となるのです」


 会場の空気が変わった。単なる理論ではない、実体験に基づいた言葉の重みを感じ取ったのだ。


「私は旅の途中で、ある隠れ里を訪れました。そこで見たのは、多様な民族が共に暮らし、それぞれの特性を活かしながら繁栄する社会でした」


 三蔵は安仁の里での体験を語り始めた。


「その里の長は、偏見を乗り越えて移民を受け入れ、福祉に手厚い自治体を築き上げていました。これは仏教の教える『一切衆生悉有仏性』の実践そのものです」


 観衆の中からすすり泣きが聞こえ始めた。三蔵の言葉に込められた真実が、心に響いているのだった。


「愛情もまた、大きな力を持ちます。暴力的で破天荒だった者、人を信じられぬ者が、慈愛によって変わった事例を数多く見てきました」


 三蔵は孫悟空を見つめた。孫悟空も誇らしそうに微笑んでいる。


「愛によって人は変わります。憎しみではなく慈悲を持って接することで、真の平和が実現できるのです。そして、その慈愛を正しく実践するためには、生涯を通した教育が必要です」


 会場は静寂に包まれていた。全ての僧侶が三蔵の言葉に聞き入っている。


「そして、自然環境の保護もまた重要です。ある一族が病に苦しむのは、人間による自然破壊が原因でした。人間中心主義には限界があります。それはいずれ、人間に未曽有の業をもたらすでしょう。『山川草木悉皆成仏』…全ての存在を尊重し、自然と調和して生きることが求められています」


 三蔵の論理は鋭く、体験談は説得力に満ちていた。


「現在、自然保護の一環として、唐国では高位の僧侶が鬼族保護の法制度を進めておられます。これは仏教の慈悲の教えを政治に活かした画期的な取り組みです」


 法制度改革の話が出ると、会場がざわめいた。実際の政治改革と結びついた実践的な提案に、多くの僧侶が感銘を受けている。


「十年間の旅を通して、私は学びました。仏教の教えは書物の中にあるのではありません。慈悲の心を持って行動する中にこそ、真の仏法があるのです」


 三蔵の最後の言葉が会場に響くと、静寂の後に大きな拍手が起こった。そして、感動の涙を流す僧侶たちの姿があちこちで見られた。


「素晴らしい...」


「こんな深い体験に基づいた論説は初めて聞いた」


「外国の若い僧侶がこれほどの境地に...」


 予選で三蔵に敗退した者達を中心に、皆が三蔵によって心を鷲掴みにされていた。はじめのうちは異国の若輩者として蔑むような目を向けていた者達が、今や三蔵に心酔しきっている。

 

 かつて安仁アンジンをして『人たらし』と言わしめ、巨大な龍さえも宥めた力。

 

 愛をもって繋がりを生み出し、他者を変容させる力。それが三蔵の本領であった。


 審査の結果発表まで、会場は興奮に包まれていた。


 そして、結果発表の時を迎えた。


「優勝..唐国、三蔵法師!」


 会場が割れんばかりの拍手に包まれた。外国人として、そして最年少として、三蔵は見事に大会優勝を勝ち取った。


「やったな、三蔵!」


 孫悟空が歓声を上げる。


「まさか、優勝とは!おめでとうございます!」


「すばらしい成長だったぞ!」

 

 猪八戒と沙悟浄も大いに喜んだ。


 壇上で受賞する三蔵の瞳は、自信に満ちていた。


 孫悟空は観客席から三蔵を見つめながら、出会った頃を思い出していた。


 たった七歳の小さな子供だった。寺を追い出され、ろくな荷物も持たずに一人で旅立った幼い僧侶。捨てられる恐怖におびえ、「大丈夫です」「すみません」しか言えなかった小さな存在。


 それが今では、六千人もの高僧を前に堂々と論を述べ、感動の涙を誘うまでに成長した。十年という月日の重みを、孫悟空は深く実感していた。


「よく頑張ったな、三蔵...」


 孫悟空の目にも涙が浮かんでいた。小さな三蔵を肩車してやった日、武術を教えた日々、異性として愛し始めた日、そして今日の栄光まで。全ての記憶が胸に蘇ってきた。


 人に従属することでしか自分を表現できなかった三蔵が、今では誇りを持って自分の体験を語っている。それが何より嬉しかった。


 会場を後にする三蔵を、多くの高僧たちが讃えていた。

三蔵は、今まで受けた愛と学びによって、大きな挑戦をやり遂げました。

高校3年生が体験する、進学や就職試験を思い出しながら綴りました。

この成功体験は、今後の彼女の人生を応援してくれる、強い味方になってくれるはずです。

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