表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/43

三蔵の出立

 翌朝、三蔵一行が里を出発する時がやってきた。


 朝早くから、里の人々が見送りに集まっていた。


「三蔵様と孫悟空様のおかげで、安仁アンジン様がお元気になられました」


「八戒兄ちゃん、悟浄兄ちゃん、頑張ってきてね」


 里の人々が口々に感謝と分かれの言葉を述べる中、安仁は大切な人達との別れの風景を見つめていた。

 長として生涯を里に捧げる運命。それは安仁の誇りそのもの。それでも、一人残る我が身がもどかしかった。


「八戒、悟浄」


 安仁が二人を呼び寄せる。


「姉上をよろしく頼む」


 安仁は、精一杯の笑顔で別れを告げる。


「承知いたしました」


 猪八戒は深々と頭を下げた。


「任せとけ」


 沙悟浄も力強く答えた。


「…安仁、八戒先生、出発までお二人でお話しください」


 三蔵が気を利かせて、安仁と猪八戒を二人きりにしてくれた。


 安仁は三蔵に頭を下げるやいなや、猪八戒の腕を取り、ずんずんと人気のない場所へと向かった。猪八戒も素直に従った。最後にもう少しだけ、二人の時間を過ごしたかった。


「八戒...」


「安仁」


 二人は見つめ合った。四年も離れ離れで、やっと再会できた。そして再びの別れである。自らの決断とはいえ、切なさが胸を締め付ける。


「昨日の花嫁姿の安仁は...いつにも増して美しかった」


 猪八戒がそっと呟く。


「そして夜は僕の腕の中で…」


 うっとりとした面もちで思いを馳せる猪八戒に、安仁の頬が真っ赤になった。


「も、もう...そのようなことを」


「夢のように幸せでした」


 猪八戒の目が輝いている。


「...儂もじゃ」


 安仁はますます恥ずかしそうに俯く。


 猪八戒が安仁の手を優しく握る。


「本当は離れたくありません。でも...」


「分かっておる」


 安仁が小さく頷く。


「儂の代わりに、姉上のお役に立つのじゃ」


「はい。必ず三蔵様を天竺にお送りします」


 猪八戒は安仁の瞳を見つめた。


「手紙を書きます。安仁のこと、里のこと、何でも教えてください」


「うむ。待っておる」


 安仁は猪八戒を見上げた。


「必ず戻ってくるのじゃぞ」


「ええ、必ず」


 猪八戒が安仁の頬に手を触れる。その優しい手つきに、安仁の頬が温かくなった。


 言葉よりも気持ちを伝えたくて、安仁は背伸びして猪八戒にそっと口づけた。


「…待っておるぞ」


 安仁の言葉に、猪八戒は力強く頷いた。


「はい。愛しています、安仁」


 ついに別れの時間がやってきた。一行は馬に荷物を積み、出発の準備を整えている。


「安仁、元気でな」


 沙悟浄が安仁の頭を軽く撫でた。幼い頃からの習慣だった。


「悟浄も気をつけるのじゃよ」


「悟空殿、姉上をお願いいたします」


 安仁は深々と頭を下げた。


「ああ、任せろ」


 孫悟空が頼もしく答える。


 最後に、安仁は三蔵と向き合った。


「姉上、また必ずお会いしましょうぞ」


「はい。今度は、もっと長く一緒にいられますように」


 三蔵の言葉に、安仁は微笑んだ。


「それまで、お互い頑張るのじゃ」


「行ってまいります」


 三蔵たちは里の門をくぐり、天竺への旅路に向かった。安仁は最後まで手を振り続けていた。


 安仁の瞳には涙が光っていた。ようやく出会えた姉たちとの別れは、想像以上に辛いものだった。


 しかし、安仁の心には希望があった。姉が無事に使命を果たし、皆が元気に戻ってきてくれることを信じて。


 里の人々が安仁を囲むように集まってきた。


「長、お寂しゅうございましょうが、皆がついております」


「安仁様、私たちがお支えします」


 里の人々の温かい言葉に、安仁は涙を拭いて振り返った。


「ありがとう、皆の者。儂には、お前たちがいるのじゃな」


 朝日が安仁の後ろ姿を照らしていた。愛する人たちを送り出し、長として、里を守り続ける決意を胸に。


 三蔵と猪八戒、沙悟浄、孫悟空は、新たな旅路を歩んでいた。それぞれの心に、安仁への想いを抱きながら。

たった数日間でしたが、安仁は16歳の自分に戻りました。そして、再び長としての日々が始まります。里(家族)の問題が根本的に解決した訳ではありません。しかし、三蔵という他者とのつながりにより、安仁は見違えるように元気になりました。ヤングケアラーの問題もまた、つながりによって孤独感を和らげることが大切です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ