双子誕生
唐の時代、中国の奥深くに隠された山間の里に、絶滅の危機に瀕した鬼の一族が細々と暮らしていた。
かつては数千を数えた純血の鬼たちも、今や百名足らず。人間による乱獲と自然破壊の影響で、年を追うごとにその数を減らし続けていた。そんな中、里の民が長らく待ち望んでいた知らせが届く。
「長に双子のお子がお生まれになりました」
産屋の前に集まった里の民たちは、皆一様に安堵の表情を浮かべていた。次代の長の誕生は、衰退の一途を辿る鬼族にとって希望の光そのものだった。
しかし、産婆の顔は青ざめていた。
「長よ...お二人のお子のうち、一人は...」
産屋の奥で、鬼族の長である女性が二人の赤子を抱いていた。双子の娘たち。一人は額に小さな角を持つ、正統な鬼の血を受け継いだ子。もう一人は、角のない——忌み子と呼ばれる存在だった。
長の心は千々に乱れていた。角なき子もまた、確かに自分の血を分けた愛しい娘。しかし、里に古くから伝わるしきたりは厳格だった。忌み子は里に災いをもたらす。そう信じられていた。
「長、いかがなされますか」
産婆が困惑した様子で尋ねる。
長は角のない子を見つめた。小さな手足、穏やかな寝顔。何の罪もない、愛らしい我が子だった。しかし、長としての責任が彼女の胸を締め付ける。里の民の安全、鬼族の存続。個人の感情で決めることは許されない。
「...月人と名付けるのじゃ」
長は震える声で言った。
「そして、しきたりに従い...人間の世界に委ねることにしよう」
産屋に重い沈黙が流れた。
「角を持つ子は安仁。この子が次の長となるのじゃ」
翌朝、最も信頼できる部下に命じて、長は月人を人里の寺の門前に置かせた。幼子が飢えることのないよう、米と銀子を包んだ布と共に。
「すまぬ...すまぬのう、月人」
長は人知れず涙を流した。
「母として、お前を守ってやることができぬ。どうか、人の世で幸せに...」
一方、里に残された安仁は、乳母に抱かれながら小さな手を空に向けて伸ばしていた。まるで、遠くに去った何かを探すように。
双子として生まれ、共に過ごすはずだった日々。しかし運命は二人を引き裂き、それぞれ異なる道を歩ませることとなった。
角を持つ安仁は、里の希望を一身に背負う次期長として。
角を持たぬ月人は、人間の世界で一人きりの人生を始めることとなった。
この時、誰も知る由はなかった。十数年後、二人が再び出会い、お互いの存在によって新たな運命を切り開くことになろうとは。
里の上空を厚い雲が覆い、小さな雨粒が静かに降り始めた。まるで、引き裂かれた姉妹を悼むかのように。
双子の姉妹のうち、姉は異なる社会へ捨てられ、妹は一族を背負うことになります。二人はどのような成長を遂げるのでしょうか。




