三蔵 16歳
十六歳になった三蔵は、孫悟空と同じくらいの背丈に成長していた。高身長で細身だがひきしまった体型、凛々しい顔立ちは、どこから見ても美青年にしか見えない。
町を歩けば、若い女性たちがちやほやと声をかけてくる。
「まあ、美しいお坊様」
「お名前は何とおっしゃるの?」
三蔵は困ったように微笑みながら丁寧に応対していた。
「ありがとうございます。でも、僕は修行中の身ですので...」
その美しさは男性の目を引くこともあった。たまに三蔵の美貌に惹かれた男がアプローチをかけることもあるのだが、孫悟空が決して許さない。
「おい、そこのお前」
孫悟空が威圧的に男に近づく。
「こいつにちょっかいを出すなら、俺を通してからにしてもらう。俺は、俺より強いやつしか認めない」
そんな者がいるはずもなく、男たちは皆逃げ出していく。三蔵は苦笑いしながら、孫悟空の過保護ぶりを見ていた。
そんなある日、都で一行に重要な来訪者があった。
「玄奘」
声をかけてきたのは、立派な法衣を身にまとった僧侶だった。国師となった弥龍である。
「弥龍お兄様!」
三蔵の顔が輝いた。幼い頃から慕ってきた人物との再会に、心から喜んでいる。
「立派になったな、玄奘。いや、今は三蔵法師と呼ぶべきか」
弥龍は優しく微笑みながら、三蔵の成長を見つめていた。
「実は、君に頼みがあって来たのだ」
弥龍の表情が真剣になる。
「私と一緒に都に来てほしい。私の妻になってくれないか」
その言葉に、沙悟浄と猪八戒は驚愕した。以前から三蔵が女性ではないかと疑ってはいたが、ここで確信を得ることになった。
孫悟空は複雑な表情を浮かべていた。人間社会においては、弥龍は確かに「俺より強い」とも言える存在だった。国師という地位、教養、社会的影響力。その全てが、孫悟空を動揺させた。
三蔵を手放したくない気持ちと、三蔵の幸せを願う気持ちの間で激しく揺れていた。そして同時に、自分が三蔵を異性としても意識していることに気づいてしまう。
「弥龍お兄様...」
三蔵は困った表情を浮かべた。弥龍への尊敬と感謝はあったが、恋愛感情とは違うものだった。
「申し訳ございません。僕は...お受けできません」
三蔵は申し訳なさそうに、しかしはっきりと断った。
弥龍は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに理解のある笑顔を浮かべた。
「そうか...君にはもう大切な人がいるのだな」
その視線は、自然と孫悟空に向けられた。
「しかし、玄奘。困ったことがあればなんでも言いなさい。力になろう」
弥龍が去った後、一行は宿で休んでいた。
孫悟空は一人で考え込んでいた。
三蔵の美しさは日に日に際立っていき、いずれ隠し通すことは難しくなるだろう。
そして何より、自分の三蔵への気持ちが、単なる保護欲を超えたものになっていることを認めざるを得なかった。
「悟空」
三蔵が孫悟空の隣に座った。
「弥龍お兄様のこと、お怒りになっていませんか?」
「...怒ってはいない」
孫悟空は正直に答えた。
「ただ、お前が幸せになれるなら、それでいいと思っていた」
「僕は...」
三蔵は言いかけて、頬を染めた。自分の気持ちを言葉にするのは、まだ難しかった。
夜空に月が瞬いていた。二人の間に流れる、まだ言葉にならない想いと共に。
三蔵が立派に成長し、二人の関係性が変わりつつあります。弥龍との出会いで、孫悟空は社会的な自分の立場に気づき、等身大の自分について考え始めます。以前の病的な自己愛を思うと、大きく成長しています。