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安仁のプログラミング教育

安仁十四歳。政治革新が軌道に乗り、部下に任せられる仕事も増えてきた。

すっかりやせ衰え、体力の落ちた安仁だったが、新たに挑戦したいことがあった。


里の工房で一人、複雑な図面と向き合っている老人がいる。移民として里にやってきた河童の技師「川流」である。

「安仁様、今日はどちらから始めましょうか」

川流が、様々な歯車や部品を並べながらにこやかに尋ねた。


このところ、安仁は川流から「からくり」の技術指導を受け始めたのである。

からくりを福祉に活かすことができれば、病床の鬼達の暮らしを支えることができるのではないか。それは、日に日に弱っていく自身にも関わる技術活用であった。


「まず、からくりの基本的な考え方を学びましょう」


川流が説明を始めた。


「からくりとは、決められた手順を正確に実行する仕組みです。例えば、この水車を見てください」


川流は、小さな模型を示した。


「水が流れる→水車が回る→歯車が動く→石臼が回る。これが『手順』です」


安仁は、興味深そうに観察した。


「なるほど。一つ一つの動作が、次の動作を引き起こすのじゃな」


「その通りです。そして、この手順を考えることを『論理的思考』と言います」


川流は、紙に図を描きながら説明した。


「もし〜なら、〜する」


「〜が終わったら、次に〜する」


「〜という条件が揃ったら、〜を実行する」


「これらの組み合わせで、複雑な動作も実現できます」


「それは面白いのう。政治にも似ておる」


「政治に?」


「うむ。『もし税収が増えたら、道路を整備する』『災害が起きたら、救援隊を派遣する』。決められた条件に従って、決められた行動を取る」


川流は、感心した。


「安仁様は、本質を理解されるのが早いですね」


「では、実際に作ってみましょう」


川流が、様々な部品を見せた。


「歯車、滑車、てこ、ばね――これらは基本的な『部品』です。それぞれに決まった働きがあります」


安仁は、歯車を手に取った。


「この歯車は、回転を伝える部品じゃな」


「正解です。そして、大きな歯車と小さな歯車を組み合わせると……」


「力が強くなったり、速度が変わったりする!」


安仁は、目を輝かせた。


「これらの部品を組み合わせることで、新しい機能を作り出せるのです」


「では、安仁様の最初の作品として、何を作りましょうか」


川流が尋ねた。


安仁は、少し考えてから答えた。


「力が弱い者…病人や老人、子供でも重いものを運ぶのを助けるからくりを作りたい」


「良いアイデアですね。では、まず『何をしたいか』を明確にしましょう」


川流は、紙に書き始めた。


「目的:重いものを楽に運ぶ」


「条件:力の弱い者でも使える」


「制約:あまり複雑にしない」


「大きな問題は、小さな問題に分けて考えます」


川流が説明した。


「重いものを運ぶ、という問題を分解してみましょう」


「まず、重いものを持ち上げる」


「次に、目的地まで移動する」


「最後に、正確な場所に置く」


「それぞれの小問題に対して、解決策を考えてみましょう」


「持ち上げる問題は、てこや滑車で解決できそうじゃ」


安仁が提案した。


「移動の問題は、車輪を使えばよい」


「置く問題は……慎重にやるしかないかのう」


川流が頷いた。


「それぞれに対する解決策を考えましたね。次は、これらを組み合わせて、一つのからくりにします」


安仁は、初めて設計図を描いた。


「まず、重いものを乗せる台を作る」


「その台に、持ち上げるためのてこを付ける」


「台の下に車輪を付けて、移動できるようにする」


川流が助言した。


「設計図では、寸法も大切です」


「どのくらいの重さまで対応するか、決めておきましょう」


安仁は、里の鬼達のことを思い浮かべた。


「米俵一俵分、約60kgまで対応したい」


設計図ができると、実際に作り始めた。


「まずは小さな模型で試してみましょう」


川流が提案した。


「プロトタイプ、と言います」


安仁は、木片や竹を使って、小さなからくりを組み立てた。


「ううむ、うまく動かぬ……」


最初の試作は、思うように動かなかった。


「それは当然です」


川流が慰めた。


「一回で完璧に動くからくりはありません。問題を見つけて改良し、問題を見つけて直すことを『デバッグ』と言います」


川流が説明した。


「どこがうまくいかないか、一つずつ確認してみましょう」


安仁は、からくりの動きを注意深く観察した。


「てこの支点の位置が悪いようじゃ」


「歯車の噛み合わせも、スムーズではない」


「車輪の軸が曲がっておる」


「よく観察できています」


川流が感心した。


「では、一つずつ直していきましょう」


安仁は、何度も改良を重ねた。


てこの位置を変え、歯車を調整し、車輪を作り直した。


「今度はどうじゃ?」


五回目の試作で、ようやくスムーズに動いた。


「やったのう!」


安仁は、嬉しそうに手を叩いた。


「これで、重いものも楽に運べる」


川流も微笑んだ。


「安仁様は、改良の才能がありますな。問題を見つけて、解決策を考える力が優れています」


小さな模型が完成すると、実物大のものを作った。


体調の悪い安仁のため、里の職人たちも手伝ってくれた。


「これは面白い仕組みだ!」


「年寄りだけじゃなく、俺たちにも便利だな」


完成したからくりを、実際に里の鬼に使ってもらった。


「おお、これは便利」


「重い米俵も、楽々運べる」


安仁は、大きな達成感を感じた。


「川流、次は何を作ろうか?」


安仁の意欲は、ますます高まった。


「今度は、もう少し複雑なからくりに挑戦してみませんか」


川流が提案した。


「例えば、条件によって動作が変わるもの」


安仁は、目を輝かせた。


「それは面白そうじゃ!例えば、雨が降ったら自動で雨戸が閉まる、などかのう?」


「まさにその通りです。条件によって動作を変えることを『条件分岐』と言います」


川流が新しい概念を教えた。


「もし雨が降っているなら、雨戸を閉める」


「もし晴れているなら、雨戸を開ける」


「これが条件分岐です」


安仁は、自動雨戸のからくりに挑戦した。


「まず、雨を感知する仕組みが必要じゃ」


「水が溜まると重くなる皿を使って、一定量で傾くようにしましょう」


川流がアドバイスした。


「皿が傾いたら、歯車が動いて雨戸が閉まる」


「雨が止んで皿が空になったら、ばねの力で元に戻る」


安仁は、設計図を描きながら考えた。


「これは複雑じゃな……しかし、やってみる価値がある」


自動雨戸システムは、今までで最も複雑だった。


多くの部品が協調して動く必要があった。


「一つの部品が故障すると、全体が動かなくなる」


安仁は、システムの脆弱性を学んだ。


「だから、重要な部分は二重にしておきます」


川流が説明した。


「これを『冗長性』と言います。一つが壊れても、もう一つで動き続けられます」


安仁は、学んだ技術を里の様々な場所で活用した。


水汲みを自動化するからくり。


薬草を一定量ずつ分ける装置。


足の悪い者でも使える昇降機。


「からくりの技術は、こんなにも応用できるのじゃな」


安仁は感嘆した。


「考え方を覚えれば、どんな問題でも解決策が見つかる」


数か月の学習を終えた時、川流が言った。


「安仁様は、からくりの技術を見事に習得されました。しかし、最も大切なのは技術そのものではありません。問題を見つけ、分解し、解決策を考え、実行し、改良する。この『考え方』が一番重要なのです」


安仁は深く頷いた。


安仁が学んだ技術は、里の若者たちにも広まった。


「安仁様が作ったからくりを見て、私たちも学びたくなりました」


若者たちが次々と川流のもとを訪れた。


里に、新しい技術者のコミュニティが生まれた。


安仁は、これを見て満足した。


「知識は共有してこそ、価値がある」


里の未来に、希望が生まれつつあった

技術革新に対応するため、学校でプログラミング教育が行われています。安仁は理系女子。昔からものづくりが大好きで、たびたび猪八戒を困らせていました。体調が心配される安仁ですが、生き生きと主体的に学ぶ姿が印象的です。

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