本当の君と出会う
笑みを浮かべる、合わせる、肯定する、慰める、助ける、耐える、耐える、耐える、耐える、我慢、我慢、我慢。
どんなに苦しくても、自分を崩さない自信があった。けれど、すべてがうまくいっていると思っていた彼女に振られたことで、その自信は簡単に崩れてしまった。
「クソ女が……」
誰もいない教室で、机を蹴り飛ばした。鈍い音が響き、教科書が床に散らばる。
椅子に浅く腰掛け、顔にタオルをかぶせた。天井を見上げる。
「ふん……やっと本性を表したわね」
嫌味たっぷりな声が、教室の入口から飛んできた。タオルを外して確認するまでも無い。
「んだよ……柊かよ」
「いつもの態度と随分と違うのね」
鼻で笑うように彼女――柊夜久奈はそう言った。
きっと、腕を組んでほくそ笑んでいることだろう。
「お前に取り繕っても無駄だからな」
半分本心だが、半分は嘘だった。
「やっぱり、私の見立て通りあなた利己的なクズだったってことね」
その言葉を聞いて俺は笑う。そして、顔にかかったタオルを投げ捨てた。
「人間なんてみんな自分の利益しか考えていないクズだよ」
俺は教室の入り口に立つ柊に視線を向けた。
腰まで伸びた黒髪。雪のように白い肌。
その整った顔立ちを決定づけているのは、人を射抜くような鋭い目つきだった。
「まあ、いいわ。いくつか質問があるの」
「どうぞ〜」
もう、投げやりだ。
「人を助けることに喜びは感じる?」
「NO」
「困っている人がいたら助ける?」
「俺に利益があるのならば」
「人の秘密は必ず守る?」
「極めて例外的なことが起きなければ必ず守る」
「次、人を助けることは自分のためになる?」
「YES……なんだこの質問」
柊は手元の紙をじっと見る。
「適性テストってところかしら。でも、あんまり意味はないようね。このテスト自体が陳腐すぎて適性を測れない」
「じゃあやる必要ないじゃん」
柊は俺の言葉を無視して、手元の紙を綺麗に四つ折りにしてポケットに入れた。
「最後に、いじめはいじめる側といじめられる側のどちらが悪い?」
俺は即答する。
「いじめられる側」
「そう、最低ね」
「最低なのはいじめをする奴だ。俺は悪くない」
「もし、いじめられている人を見つけたら?」
「俺に利益があれば助ける。そうじゃなければ助けない」
柊は首を傾げる。
「わからないわね。あなたの行動原理が」
「俺の信条は……」
「信条?」
俺は椅子から立ち上がり鞄を肩に抱える。
「利己のために、他者を考慮する」
「つまり、自分が得をするために他人を利用するってこと?」
「違う。嫌われたり恨まれたりすれば、損になる。好かれれば得になる」
「……だから、他人のことも考える?」
「そう。でも別に、他人のためじゃない。俺にとって損か得か、それだけ」
「最低ね」
「そうかもな。でも、人間なんてみんなそんなもんだろ」