アビィ
建物の中は開けていた。天井は高く、下は地下深くまで見渡せる。
リュプケ「リザードマン?」ベッカーの目から、
地下の培養液から出てきた生物を魔女が確認する。
ベッカー「後方の補給線でよく見かける亜人だ。」
キューちゃん「私の仲間ですか?」
ベッカー「いや、奴らはオツムが弱い。単純な命令しかこなせない。」
リュプケ「元が、トカゲだからな。」
ベッカー「例えば、警備、巡回とかだ。」
ベッカーが後に続くキューちゃんに振り向く。
ドゴォ!
キューちゃんは壁に叩きつけられた。
リュプケ「見つかったぞ!」
そこには軽装の、鉄のこん棒を持ったリザードマンがいた。舌を素早く出し入れしている。
ベッカーはすかさず光の剣を抜いて切りかかった。
足音が高い。今の激突音もそうだが、すぐに警備が集まってくるだろう。
リザードマンはベッカーの斬撃を見切って後に避けた。
ビュゥゥン、光の剣の高圧エネルギーを感知したのかリザードマンは距離を取った。
リュプケ「コイツラは近接にめっぽう強い。」
それもそのはずだ、目が左右に二対、4つもある。
ベッカー「キューちゃん!」
キューちゃん「バッファー、再起動……損傷軽微。失礼しました。」
リュプケ「悠長だなぁ、レビューは星2つに変更しよう。」
お前も結構、悠長な方だと思うぞ。
狭い通路、前後からは警備が集まってくる。
どうする?
するとキューちゃんはベッカーをヒョイとお姫様抱っこするとそこから飛び降りた。
警備「この高さから?ばかめ!」
ドン!
キューちゃんは無事に着地する。
リュプケ「星3つ。」
ベッカー「助かった。とりあえず、奥に走ろう。」
上では警備員たちが騒いでいる。突然降ってきたベッカー達に驚いた研究員姿の従業員は、その場に固まって短く悲鳴を上げるくらいだった。
リュプケ「そこに入れ!」
奥の部屋に籠城する。さてこれからどうする。
ベッカーが思案している、後から異様な気配がする。
???「おやおや、お客さんかな?」
薄暗い部屋に明かりがつく。ベッカーとキューちゃんは振り向いた。
アビィ「私はアビィ。君等は何?泥棒さんかなぁ?」
殺風景なコンクリートむき出しの壁に不釣り合いな、
豪華な装飾がしてある木製の机に肘をついた赤毛の少女がベッカー達を見定める。その目は狂気を帯びていた。
ベッカー「う!」その目に見つめられて、ベッカーは頭を弄られる感覚に襲われる。
アビィ「?ネクロイド?そっちは?……あー、ゲル人間か。少し、カスタムしてあるね。」
リュプケ「気をつけろ。奴も魔女だ。」
アビィ「ハハハ、なんだ?魔女もいるのか。」
リュプケ「クソッ幽世通信を傍受されたな。」
アビィ「まぁ、私の城に土足で入ってきたんだ、じっくり遊んでやろうじゃないか?」
イスからアビィが立ちあがる。そこにノーモーションでキューちゃんの手刀による射突が襲う。
コォォン!
その手はアビィのすんでで何かに当たり止まる。
リュプケ「防御結界!?コイツはー」
アビィ「強敵だろう?」
リュプケ「読まれた!!?」リュプケが驚愕する声を初めて聞いたかもしれない。
その時、アビィは何かを感じてキューちゃんを見た。
アビィ「お?……ゲル人間の分際で取引だとぉ?」
キューちゃん「我々は此処から脱出したい。」
アビィ「そうだろうねぇ。」
キューちゃん「その場合、貴方を倒しても倒さなくても、脱出に帰結する。」
アビィ「うんうん、それで?」
キューちゃん「あなたはここを城だといった。城主のいなくなった城は城とはもう言わない。」
アビィ「なるほど、私も命の危険を冒してまで君等と戦わなくていい選択肢がある、ということか。」
ベッカーは光の剣を抜いた。示威行動。
アビィ「命の危険とはそれのことかなぁ?面白い、勝てると思ってるのが実に面白い。」
ケケケケケ!机の前に出てきた少女、下はヘビの体だった。
リュプケ「ラミアだ。実在したのか。」
アビィ「お前達は私の作品の餌になってもらおう。」
ニチャァ。開けた口の中はヘビのそれだった。
ベッカーは切りかかった。が、体が宙に浮く。
リュプケ「重力?!」
アビィ「さあなぁ?当ててみな。」
ベッカーは床に叩きつけられ、めり込んだ。
ベッカー「ぐはっ!」
キューちゃんの射突、また空中で弾かれる。
ベッカー「!」ベッカーは何かにハッとする。
リュプケ「何も考えるな!」
キューちゃんのローブから何かが射出される。
アビィ「う!」ビチャァ!
アビィの顔に粘液が張り付く、そこへすかさず、ベッカーが突っ込む!
ズド!
アビィ「ぎゃぁぁぁぁ!」
腹部を光の剣で貫かれアビィは悲鳴を上げて絶命した。
ベッカーはキューちゃんに目を向けた。
ベッカー「幽世通信、しかも圧縮言語で?」
キューちゃん「理解が早くて助かりました。」
リュプケ「ホント、カタログ詐欺だな!クインシーは!私も負けてられない!」
横たわるラミアをキューちゃんは見下ろす。
キューちゃん「彼女は、我々の心を読んでた。だからこその防御結界。なら、思考をしなければ?と、思いついたのです。」
まぁ。とキューちゃんは続ける。
キューちゃん「ここからどう脱出しましょう?」
そこなんだよなぁ。
2人は首を傾げた。
ベッカーの体を借りてリュプケは術を施した。
リュプケ「即席だが、いいのができた。」
簡易ゴーストを封入したラミアの死体が動く。
さっきまで敵で、さっきまで動いていた相手なのでベッカーは嫌な顔をした。
リュプケ「まあ見てな。」アビィの口からリュプケの声がする。
ズバァ!
リュプケの戦略魔法、時空割断。アビィから繰り出された次元を切り裂く刃が施設を破壊する。
反動でラミアの体はバラバラになった。
キューちゃん「脱出しましょう。」
部屋の外に出るとそこは真っ二つに両断されて絶命した、施設従業員と警備員、リザードマンの死体が足場を埋め尽くすほどに広がっていた。
ベッカー「血の海とはこんなかね?」
凄惨。魔女は残酷である。魔法剣を習得したときからベッカーは身を持って知っていたが、この光景に再確認した。
リュプケ「いい材料になるんだけど、今はそうは言ってられないか。」
キューちゃん「行きましょう。」