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その祈りは獣に捧ぐ  作者: 日諸 畔
第4章『真相』
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第47話《焦燥》

 立ち上がった黒い機人は、優助に向かって身構える姿勢をとった。見る限り、脚部にはローラーが装備されていない。先程の突撃は、単純に脚部の力で飛びかかってきただけのようだ。

 最後通告のタイミングで現れたということは、ここの防衛を担っているのだろう。ケモノを作る設備を機人が守る。優助の感覚では、とても奇妙なことに思えた。


 優助は警戒しつつ、装甲車の中での会話を思い出していた。久美の言う『機人を操れるのは槍持ち』という仮説には納得できる要素があった。それが正しいとしたら、目の前に立つ黒い機人には槍持ちが乗っている。

 ならば、対話の余地はあるのではないか。何か理由があって、仕方なくここにいるのかもしれない。


「聞こえるか? 俺は槍持ちだ」


 外部スピーカーを使い、声をかける。何らかの反応を心から願った。通信ができない装甲車の状況も気になる。優助の精神を焦燥が支配していく。

 目の前の巨人は、優助の機人よりも手足が角張っていて太い。全体的にずんぐりと力強い印象の黒い機人が、ゆっくりと膝を曲げ屈んでいる。


「おい、聞こえていないのか?」


 返事の代わりに、衝撃が優助と機人を襲った。今度は自動回避も間に合わなかった。


「ぐっ……!」


 黒い機人の体当たりをまともに受け、機人は大きく吹き飛んだ。複数の円筒が巻き込まれ、液体と生産途中のケモノが散乱する。

 衝撃に意識を失いかけるが、電算装置からの情報提示がそれを許さなかった。攻撃を受けた被害は想像よりも甚大だ。


 左腕肘関節に歪み。

 右脚部三番装甲の変形。

 振動センサーに異常。

 後部補助カメラ破損。

 背部懸架槍型装備の全脱落。


 他にも細々とした損傷が報告された。一回の体当たりでこれだ。何度も受けてしまえば、優助も機人の中で潰されることになる。追撃は避けなければならない。

 同胞への呼びかけは諦めるしかなかった。この状況では、対話などできるはずもない。

 電算装置からも一旦の退却を推奨される。これまで散々無視してきたが、今回ばかりは承認した。


「くそっ!」


 機人を立ち上がらせ、入ってきたルートを最速で引き返す。黒い機人は追ってくるものの、ローラーダッシュの速度には追い付けないようだった。


『優助くん!』


 正方形の通路を過ぎ、元々の施設に入ったところで久美の叫び声が聞こえた。ケモノの生産施設内では、通信の撹乱があったのかもしれない。

 朽ちかけた建物を壊さないようにローラーダッシュの速度を調整しつつ、通信機に応えた。


「古宮さん、聞こえます」

『ああ、やっと繋がった』


 久美の声にはいつもの余裕がない。不味いことが起きていると、優助は直感した。


「すぐ戻ります」

『急いで。ケモノに囲まれてるの。たぶん針付き。今は理保ちゃんが対応してくれてるから、なんとかなってるけど』

「了解!」


 特殊運用室の装甲車には、自己防衛のための装備が用意されている。槍の原理を応用し、祈りに指向性を持たせたものだ。

 これも試験段階では効果距離が短すぎて役に立たなかったが、理保が使えば立派な対ケモノの兵器となった。機人が装甲車から離れた場合の対策として用意したものが、ここで効果を発揮したということだ。

 しかし、多数のケモノに囲まれてはそれも時間稼ぎにしかならない。優助は急ぎ、施設の通路を移動した。


 広場を右に曲がれば、すぐに出入口だ。黒い機人に追い付かれる前に、装甲車の安全を確保しなければならない。

 機人の電算装置からは、黒い機人の想定性能が随時送られてくる。こちらも早めに勝ち筋を見出しておきたい。

 出入口に近付き、外の光が見えてきた。暗視モードが自動的に解除される。


「なっ?」


 施設の開口部には、陽光を遮るように黒い巨人が直立していた。

 走行による移動ではローラーダッシュには追い付けないはずだ。混乱する頭のまま、急停止をかける。

 一瞬側面を向いた際、施設の壁に開いた穴が目に入った。ここに入った時にはなかった穴だ。


「そういうことかよ」


 穴はケモノの生産施設に真っ直ぐ繋がっていた。奴はこの建物が崩れることを気にしない。振動センサーが死んでいたため、気付くことができなかった。

 どうやら侵入者の排除が目的ではないようだ。真の目的は、侵入者の抹消といったところだろうか。


「きついな……」


 そして、電算装置から送られてくる分析結果は絶望的だった。

 各関節の出力は、機人に換算すると七十パーセント程度だ。万全の状態なら負けはしない。しかし、今の機人はまともな整備もできず、本来の力の四十パーセントがほぼ限界だ。無理に出力を上げれば、フレームが耐えきれず自壊する危険性がある。

 つまり、単純な力比べでは勝てないということだ。


 相手の装甲は機人よりは世代が古いが、半生体素材が使われている。対ケモノように作られたハンマーなど、まるで効果はないだろう。

 両腕の杭も同様だ。いくら太く頑丈とはいえ、あれは貫けない。

 黒い機人は、身を屈め体当たりの姿勢を見せた。回避のタイミングを誤れば、建物の奥まで逆戻りだ。


 打ち手が見つからないまま、焦りばかりが募る。自分の身も危険なのだが、それよりも理保たちのことばかりが気にかかっていた。

 無理にでも出力を上げるしかないか。最後の手段として考えた時、電算装置からひとつの戦術案が提示された。


『電子攻撃とサイバー攻撃の併用を提案する』


 それは、優助にとっては聞き慣れない言葉だった。

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