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その祈りは獣に捧ぐ  作者: 日諸 畔
第3章『脈動』
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第32話《包囲》

 ローラーダッシュの勢いのまま、槍持ちを取り囲むケモノへと杭を突き刺す。間をおかず、祈りの力を送り込む。両脚両脚に取り付けられた四本の杭に、七体がその動きを止めた。


「次だ」



 今回はこれまでとは状況が違う。地面は瓦礫に覆われている上に、ケモノが密集しすぎている。以前のように、ローラーダッシュで駆けつつ仕留める戦法は使えない。

 初手以降は、機体の力で杭を振ることになる。それでも、確実に少しずつ減らしていくことが、今できる最短の方法だ。


 続けて何体かを停止させ、周囲の生体反応を確認する。生きている槍持ちは既に三十人を切っていた。無傷な者がいるかどうかは、わからない。


「くそっ」


 どうしようもない焦りを感じつつ、優助は杭を突き刺し続けた。ケモノは機人に振り向くことなく、槍持ち達を襲っている。

 攻撃にも反応しないということは、やはり何かの意思が介在している。これが都市の人々に向けられたら、人間は終わってしまう。


『どうだ?』


 通信機から斎藤の呼び掛けが聞こえた。


「良くない。機人が無視されている」

『そうか。異常があったらすぐに連絡しろよ』

「了解」


 返答しながら、二十一体目が動きを止めた。これでようやく十分の一だ。祈りの残量はまだ問題ない。しかし、恐らく百体前後で枯渇していまう。どこかのタイミングでこの場を離れ、理保に補充してもらわなければならない。

 彼女の乗る車両を危険に晒したくはないが、こればかりは仕方ないことだ。ケモノの数を減らしつつも、離脱に最適なタイミングを考えていた。


 五十三体目に刺した左脚の杭を引き抜いた時、優助は雰囲気が変わったことを、確信した。センサーや電算装置からの情報ではなく、何となく感じた《勘》のようなものだ。

 直後、取り囲まれた槍持ちの生体反応が、全て消えた。


「来るか?」


 次に向かう先は機人か、それとも人間か。

 優助は肝を冷やしながらも、手を止める事はしない。どんな結果になろうが、一体でも減らしておいた方がいい。


「よし」


 七割以上残るケモノの集団は、真っ直ぐ機人へと向かってきた。これは僥倖だ。まだ対処のしようがある。行動の理由は、後で分析すればいい。

 まずは、この脅威の完全排除だ。


 機人の周囲を取り囲んだケモノが、五体ずつ順に飛びかかってくる。一斉でないのは、互いに攻撃の邪魔をしないためだろう。実に効率的な方法だ。そんなこと、動物のやることではなかった。

 ケモノの爪や牙では、機人の装甲を傷付けることはできない。腕力でも機人を止めることはできない。祈りの力が残っている限りは、ケモノは狩られる側の存在だ。


 杭を突き刺し祈りを送り込む。単純作業の繰り返しだ。既に数えるのはやめていた。

 機人の周りには、停止したケモノが山になっている。それらに阻まれ、足の踏み場がなくなってきた。


「くそっ」


 軽く跳躍して場所を変える。その際に確認したケモノの残数は、約百二十。かなり減ったとはいえ、まだ半数以上がひしめいていた。

 祈りの残量も心許ない。ここは一時退いて立て直すべきか。優助はメインカメラを特殊運用室の車両へ向けた。

 統率されたように見えるケモノは、一瞬の逡巡を見逃さなかった。見逃さなかったのは、どこかで見ている何かなのかもしれない。

 約百体が機人から離れ、待機している本隊へと駆け出した。


「斎藤さん、ケモノが向かった!」


 優助は通信機に向かって叫んだ。


『了解!』


 恐らく、迎撃体勢をとるのは間に合わない。指揮系統を重視するため、防人への指示は現場司令部からのみ許されている。

 優助から斎藤、斎藤から現場司令部、現場司令部から防人という伝言ゲームになれば、即応性など期待できない。


「行かせない」


 優助は跳躍しようと、膝を屈めさせる。


「なっ……」


 ケモノが機人の左脚にしがみついていた。分厚い筋肉と硬い体毛が、膝関節の動きを妨害する。左腕の杭を突き刺し、祈りを送り込みつつ引き剥した。

 その隙に、多数のケモノ達が飛びかかってきた。先程と違い、一斉にだ。


「くそっ……!」


 ケモノ単体では機人を止めることはできないが、この数では話が別だ。両手脚に絡みつかれているため、杭も突き刺せない。引きずるようにして移動するのが精一杯だった。

 こうしている間にも、理保へとケモノが迫っている。優先順位を心に決めたばかりなのにこれだ。優助は自分の選択ミスに怒りを感じた。


 機人電算装置から、対応案がいくつか提示される。優先順位から判断すると、手段はひとつに絞られる。確実にこの場は切り抜けられるが、リスクが大きい手段だ。

 電算装置は優先順位の変更を提案してきた。優助はそれを拒否した。

 当てつけのように、複数のリスク情報が脳に送り込まれる。


 人工筋肉破損の可能性

 左肩部破損の可能性

 右膝部破損の可能性

 一時的な動力ダウンの可能性

 搭乗者への身体的負担


「だまれ」


 あえて言葉に出して一喝する。機械に指図されてたまるか。優助にはあらゆるリスクよりも優先すべきものがある。


「やれ」


 優助の指示を受け、機人は五十パーセントに抑えていた全体出力を九十八パーセントまで解放した。

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