レコード Record
愛用のレコードは、そろそろ買い換えどきかもしれない。私はうまく歌えなくなったレコードを眺めながら思案した。
このレコードは、もうずいぶん長く使っている。購入当時からすでに型遅れで機能も悪いレコードだったが、なだらかで優しい輪郭を基本に、慎ましく、黒塗りで、レトロなデザインを気に入っている。軽量のレコードのため重厚な曲の再生には向かないが、流行のポップスを歌わせるくらいなら充分だった。
それが最近では、古いせいか音が劣化してきこえる。ソフトの問題ではない。最新のナンバを歌わせても音は飛ぶし、ひどいときは変なところで何度もリピートする。もう寿命なのだろう。やはり新しいレコードの購入時期かもしれない。
「新しいレコードをお買い求めですか」彼女がいった。上体を屈めて、美しい黒髪がさらりと流れ落ちる。
「いかんせん年代物だろう。音が悪くなってるよ」
「左様でございますか」彼女は残念そうに目を伏せる。「新しいほうがお好みですか」
「そういうわけじゃないけれど、最近の家電は洗練されてて綺麗だね」
「左様でございますか」彼女はしょんぼりと肩を落とす。
「新しいの買ってもさ、捨てはしないよ」
「歌う役目を与えられなくなったレコードなど、価値はありませんわ」
「そんなこというものじゃないよ」
「あなたは新型が好きだって……」
「わかった。修理に出してみよう」
「なおりますか」彼女は上目遣いで、私の顔を伺う。
「どうかな」
「古い物です。換えの部品など、あればよいのですが……」
「そのときはそのときさ。人間も機械も、歳には敵わないものだと、こればっかりはあきらめないとね」
「ええ」優しげに微笑んだ彼女は、しかし数日後、完全に動かなくなってしまった。