5-12
リッコは転送が思ったよりも長い間かかっているので困ってしまった。息を止める前に、そんなにたくさん吸っておかなかったのだ。息が苦しくなってきて、靴の中で足の指をばたばたさせるが、転送はなかなか終わってくれない。
とうとうがまんできなくなって、鼻から息を吸い込んだが最後、まるで水の中で呼吸した時のように鼻が痛くなった。
「よし、転移完了。もう目を開けてもいいぞリッコ……って、おい!?」
「あ、鼻血!? やだ、お気に入りのスカートが」
「いや心配そこか。転送中に呼吸したな? 椅子に座れ。今、鼻に詰めるティッシュを持ってくる」
リッコは鼻に詰め物をするのに若干ためらいがあったが、血が止まらないのでしぶしぶとティッシュを詰めた。
その後で血まみれの手指を洗ってリビングに戻ってくると、どこにもナナカの姿が見えないことに気付き、オードに問いかける。
「ナナカ、お出かけ中?」
オードはそれには答えず、しばらくの間渋い顔でテーブルに置いてあった紙を見つめていた。やがて彼は目元を手で覆い、顔を仰向けた。
「オード?」
「行き違いだ。ナナカは極東に飛んだらしい」
「えぇ!?」
名前を呼ばれてリッコへ移したオードの視線は、あきらかに『やらかした』と告げている。
立ち上がったリッコは鼻に詰め物をしたまま、その場にくずおれて床に両手をついた。
「すまない……おれのミスだ」
「ねえすぐ戻って! できるでしょ?」
「今すぐか? 無理に決まってる。慣れてる人間でも転移は一日に一回までと抑えるのに、ましてや鼻血までふいてるリッコにそんな危険なことさせられない」
「本人が良いって言ってるのよ? 今すぐ戻って」
徐々に涙声になってきたリッコに対して、けれどオードは冷静に首を横に振った。




