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まだコントロールが不慣れなリッコだ。出し切るのは楽だが少なくするのは難しい。
光の帯を途中で千切ると、ぴり、ぱち。と静電気のようなものが彼女の指にまとわりつく。「これは困るわね」とオードにこぼすと、「魔力は電磁波に似てると言うからな」と教えてくれる。
「電磁波に?」
「そうだ。右のこめかみの辺りから左の踵へ向かって流れる。だから足の裏は必ず左の踵がささくれ立つし、白髪は右に集まりがちだ。これまでに意識したことはなかったのか?」
「そんなの気付かないわよ。まだそんなに白髪が出てくる歳じゃないし──いや、でもそっか。だからフリーカラーのパンプス……」
「心当たりあったか」
うんうんとうなずくリッコを横目に、くす。と笑って手を差し出すオード。
リッコの指先にまとわりついているテープを一枚ずつつまんで床に円を描くように置いていく。
それがやがて荷物も含めて一周囲むと、彼は真っ直ぐに立って西洋語を唱え出した。
リッコはテープから深紅の光が下から上へと垂直に伸びていくのを見て、身をすくめた。
紅が円柱を作るように立ち昇っていく。
その柱が完成する少し前にオードが告げた。
「できるだけすべての穴をふさげ。目や口は閉じて耳は両手で押さえろ」
「え?」
「いそげ。息は止めろ」
慌てて言われた通りにするリッコ。
目を閉じているから見えないが、時々赤い光がまぶたに当たる。それと同時に、両手からぱりぱりと静電気が走った。いや、おそらく魔力なのだろうが。




