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彼が借りている部屋に入ると、部屋の中央に据えられていたと思しきローテーブルが窓辺に移動させられていて、部屋の中が大きく空けてあった。
テーブルの上には深い赤色の地に金色の文字が描かれた紙テープが一束置いてある。
オードは荷物を床に置くように告げると、入れ替わりにその紙テープをリッコに持たせた。
「昨日、おれが言った通りに魔力を使わずにいたなら、多少の寝不足は大丈夫だ。行けるか」
「魔法を使うの? まだ『雨降り』も『明かり取り』もまともにできないのに?」
「心配するな。今日リッコに使ってもらうのは、魔法じゃなくて魔力のほうさ」
「うまくできるかしら」
「起動と終了はおれがやる。おれの魔力だと一度に二人の移動はきついから、リッコには効果の増幅を頼むつもりだ」
「具体的には? どうやるの?」
あれからリッコは意識して杖に精霊を入れることができるようになっていた。そうであれば、自分の魔力を何かに注ぐことは難しくないはずだと。そう告げてオードが紙テープを指差す。
「これに魔力を?」
「そうだ。魔力が通るとその文字が光る。それを光った分ずつちぎっておれに渡してくれ。いいか?」
ひとつうなずいてリッコは両手に紙テープを挟んだ。
すると数秒で、テープの先端からぐるりと表面が光って三周分ほど手の中に明かりが灯る。
「おい、いっぺんに出しすぎだ。これくらいずつでいい」
言ってオードが人差し指と親指の間で示したのは長さで言うと彼の親指の爪くらいのものだった。




