5-9
前日に詰めた旅の荷物ひとつを手にして出発した土曜日。
リッコはどきどきしながらオードの待つホテルの正面玄関におもむいた。
「おはよう。よく眠れたか?」
「それが何度か目が覚めちゃって……眠たくはないんだけど」
「緊張してたか」
片方だけ眉を引き上げて、肩をすくめたのはオードだ。
「まだまだだな。魔法使いなら、いつも平気でいられるようにならないと」
「オードはできてるの?」
「そう見えないか?」
「ううん、見える」
「…………」
「…………」
無言で口の端を片側だけ吊り上げて勝ち誇るオード。
同じく無言で両頬をふくらませて悔しがるリッコ。
彼女が、びしっ。と彼の頬を指でつつくと、彼は笑いをこらえて顔を逸らし指から逃げた。
「もう! 絶対にいつも平常心でいられるようになるんだから!」
「がんばれ。……ああ、でも無理は不要だぞ。何しろ師匠もまだたまにできてないからな」
「ナナカが?」
「少し前も泣いてたな」
「ええ何で!」
「……秘密だ」
「うそ! 教えてよ!」
「……リッコに早く会いたいってさ」
「……うそ。ホントに?」
「ウソ」
「──! もう! オードのバカ! 早く行こ!」
彼の背後に回り込んだリッコがその広い背中を両手で押した。
はいはいと軽く答えてホテルの中へ戻っていくオードを、リッコも後から追いかける。




