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「ナナカかわいそう……どうして協会はナナカに?」
「渡せる状態の手引き書と杖とがセットでそろっていたのが、その時は師匠だけだったと聞いてる」
リッコは両手で顔を覆って、深く吸った息を吐き出した。
その手を少しおろして、覆っているのを鼻と口だけにする。自由になった両の目で前を見ると、そこにはオードの顔があった。
穏やかな表情だ。
リッコは、ぽそりと言葉をこぼした。
「あたし、ひどいことしたわ」
「うん」
「お金なんか持っていくんじゃなかった」
「うん」
「大人になっても欲しいと思ったらあげるって約束してくれた。あの約束を信じてれば良かったのよ」
「うん……そうだな」
リッコの目からは涙が幾粒も幾粒も転がり落ちていく。
オードは片手でハンカチを差し出して、もう片方の手で彼女の頭を撫でた。
「師匠さ、リッコが来なくなってた間も極東語の手引き書を少しずつ作ってたんだ。いつか杖と一緒にリッコにあげられるようにって」
「ナナカ……ごめんね、ごめんね」
「ここで言っても仕方ないぞ」
「会いたいよ──っぅえええん」
だから。
だから行こう。
師匠の住まいへ。
いよいよ本気で泣き出したリッコを持て余し、とりあえず頭を撫でられるだけ撫でて、中央北へ──ナナカの家があるオードの故郷へと、一緒に行こうと持ちかける。
リッコはうんうんとうなずいて渡されたハンカチが全面的にびしょ濡れになるまで、ずっとずっと泣いていた。




