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魔法使いはどれほど強い魔法を使えるようになっても、実際にそれを必要とされる場面に遭遇するのはまれだ。
山ひとつ焼き払う炎の魔法。湖ひとつ干上がらせる水の魔法。街ひとつ建物なく均す土の魔法。林ひとつ根こそぎ取り去る風の魔法。
──そんな機会はないほうがよいのだ。
結果、魔法が使えるようになってもそれを生活の糧にする者はほとんどいない。
魔法協会に所属しても回ってくる仕事は魔法と関わりのない内容のものが七割を超える。
魔法に憧れる子どもは多いが、大抵は大人になって現実を知ると魔法使いは目指さない。
だがどこにでも例外はいる。
魔法使いになりたいと親に告げてその方針を曲げない、ピーターパンのような大人もいるにはいるのだ。
ナナカのところに来た紳士は、そんなピーターパンの父親だった。
「本人に向けて言うことじゃないが、そんなあやしげな職業に就いている者のもとへ、弟子入りなどさせたくない。息子は弟子入りがダメならせめて杖を買ってきてほしいと告げたと言うんだ」
「さすがはピーターパン。自分で稼いでお金を貯めるという発想に至らなかったのね」
「まあそう言うな。親が権力者でな。バイトもしたことなかったそうだ」
「ナナカはそれで、非売品だった杖をしぶしぶ売ったってこと?」
「そうだ。彼はまず魔法協会の門を叩いた。そして協会が白羽の矢を立てたのが師匠だったってわけだ」




