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「いつもってことはないけどな。今日は午前中、付きっきりだったから」
「そうね。杖に精霊を入れる方法についてあれこれ聞いてたの」
「休憩中は仕事のことは無しにしろよ。そのうちパンクしちまうぞ」
「──ん。そうね、ありがと」
そう答えたリッコの笑顔には、ほんの少しだけ苦みが混ざっていた。
それに気付いたのかどうかさだかでないが、トレイを片付けて戻ってきたオードがハヤタに問いかける。
いわく、放熱の魔法を使わなかったかと。
「よく分かんねえけど、水が沸騰した。それか?」
「それだ。意識してか?」
「いや、ちょっと苛つくことがあってな」
「気をつけたほうがいい。ハヤタは火の精霊と相性が良すぎるみたいだ。下手したら皮膚から発火するぞ」
「発火!? おい、シャレになんねえぞ?」
「──っ」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、その精霊との相性の良さがうらやましかったリッコは、自身の恐ろしい考えに息を呑んだ。
内心で深く反省して、二人に提案する。
「ねえ、相性が良いだけの素人が気を付けてどうにかなるものじゃないわ。水の護符は役に立たない? あたし作るわよ」
「そうだな、それが良いかもしれない。でも作れるのか? リッコ。魔法協会印の護符を調達することもできるぞ」
「いや、せっかくの申し出だ。リッコに頼もう。ありがとな二人とも」
リッコのそれはハヤタにとって本音では小躍りするほど嬉しい申し出だったが、彼はあえて感情をセーブして淡々と告げた。




