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本当はリッコに説明するつもりだったのだ。
何がいけなかったのか。
そうしてもし分かってくれれば、すぐにこちらからも謝るつもりだった。
でももう順序などどうでも良い。
今すぐにでも極東に行ってリッコに謝りたいナナカだったが、見ればオードが作成途中だった応用編の魔導書の翻訳はまだ十分の一くらいしか進んでいない。
水鏡の魔法がかかっていた痕跡のあるコーヒーがそばに置いてあるから、仕事そっちのけで極東にいた自分たちの様子を覗き見していたのだろう。
そうだ。
さっさと翻訳を終わらせて、納品にかこつけて極東へ出向こう。
うん。と意を決して、ナナカは魔導書専用の用紙にペンを走らせていった。
* * *
「オードってさ……ずっとオードだった?」
「何だそれ」
「いや、そうだよね。ごめん何でもない」
昼食を食べ終えて二人してコーヒーを飲んでいると、昨日オードのことが一瞬ナナカに見えたことが思い出されて、思わず聞いてしまったリッコだ。
そんなはずはないと思っているので、抱いている疑惑を撤回するのも早い。
オードはカップを置くと、隣に座っているリッコの頭を撫でた。
声はリッコに聞こえないが、唇の動きは『早く来てくださいよ、お師匠』だった。
食堂の中で風の属性を持つ者がいれば魔法の気配に気付けたかもしれないが、少なくともリッコにはまだ感じ取れなかった。
そんな、見た目には仲睦まじい様子の二人を背後から見つめて、いきどおりに震えていた男がいる。
ハヤタだ。




