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リッコは下を向いてよくよく考えてから、視線をオード(ナナカ)へ向けて言葉を返す。
「ん──ううん、ケイオンプロジェクトとしては杖がなきゃ話にならないし……それに」
「それに?」
「弟子には、なるならナナカが良いの。ごめんねオード。せっかく言ってくれたのに」
そう告げた途端、オード(ナナカ)の足元に光り輝く円陣が現れた。
そこから濃い湯気のようなものが猛烈なスピードで立ち込めて、魔法使いの姿を覆い隠し、中庭全体を包み込んでしばらくの間、晴れなかった。
「オード!? どうしたの?」
リッコは湯気と同時に吹き付ける熱波から両腕で顔を庇い、必死になって教師の名前を呼んだ。
二、三分ほど経ったろうか。
ゆっくりと湯気が薄れて消えていく。そこには苦笑いを浮かべたオードがひとり立っていた。
「──じゃあ、始めるとするか。まずは杖に精霊を入れる練習からだろ?」
* * *
室内でひとりぽろぽろと泣いているのは、先ほどまで極東にいたナナカだ。
トリガーを術者の涙に設定してあった配置交代の呪文が反応して、中央北にあるナナカの家にいたオードと入れ替わったのだった。
「ごめんね、ごめんねリッコ……うっ、うっ」
鼻をかんだハンカチを水魔法で洗って風魔法で乾かして、その間にかんでいた別のハンカチを入れ替わりにまた洗って乾かして、また、ちーん。と鼻をかみ……三枚で繰り返して三十分くらいそうして泣いただろうか。
ナナカは、ふー。とため息をついて紅茶を入れると、それをゆっくりと飲み込んだ。
さて。これからどうしよう。




