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しおりを置いた左のページには夜明けに使っている水精召喚の呪文。右側にはオードから教わった循環の呪文が書かれている。リッコはてっきり応用編の回復の呪文だと思っていたのだ。まさか基本の呪文だとはつゆ知らず。
オードによると循環の呪文は、水精を杖の代わりに自分の体内に呼び入れてコントロールする練習のために使うものであるらしい。呼んだ精霊を杖に入れられなかったリッコにはちょうどいい練習になると勧められた。
召喚の呪文は完全に覚えていたが、循環の呪文は後半があやふやだ。何度も繰り返して詩集を読み込んで呪文をものにする。しかし何となくオードが言ってたのと細部が異なるような気もした。今度会ったら聞いてみよう。
ぱたんと両手で本を閉じてテーブルの上に置いた。
バトラーおやすみ。と言いながら立ち上がる。するとテレビと照明が一度に消えた。入れ替わりに廊下の照明が点いて、寝室までの動線を照らした。寝室のドアを開けて中に入ると、廊下の照明は消灯する。
デフォルトの設定では『バトラーテレビを消して』『バトラーリビングの明かりを消して』『バトラー廊下の明かりをつけて』などとひとつひとつの器具に対して命令を送るようになっていたのだ。それでは使いづらいのでほとんどの設定をやり直してある。
ベッドに入ってもう一度おやすみを言うと、足元にひとつだけ、暖色のライトを残してすべての照明が眠りに就いた。
それを見届けてからリッコも両目を閉じる。
「我が血、我が命──めぐれ我が体内。すべての温もりと共に」
循環の呪文を唱えると、前回と同じく手足の先まで温かくなった。今回はそこで止めずに身体の中をめぐる温もりを意識して一周を数えた。肩や腰やお尻などが意外と冷えていたことに気づけておもしろい。ほどよい温かさにひたりながら意識を手放した彼女は掛け布団の中でほっこりと笑っていた。




