1-6
「そう。夜明けのティーカップの魔法」
黒い花びらが入ったガラスのポットにヤカンからお湯を注ぐと、濃い藍色のお茶の中で空気の粒が瞬いた。それをカップに注ぐとまるで星の輝く夜空のよう。何だか飲むのがもったいないと、リッコが飽きずに眺めていると、ナナカがつんつんとリッコの腕をつついた。
「まだ続きがあるのよ──見てて?」
ナナカが砂糖の瓶からレモンの輪切りを一枚取り出し、自分のカップへ沈めた。
するとカップの底の方から徐々に茶の色が藍色からバラ色に変わっていく。まるで冬の朝早くに見た夜明けのようだ。リッコは唇をヒヨコのように尖らせてその光景に見入っていた。その様子を見てナナカがふふと笑う。リッコは元気に挙手して自分の前に置いてある夜色のカップを引き寄せると、自分もやると言った。ナナカがうれしそうに砂糖の瓶を両手で持って、中身が取り出しやすいようにリッコのほうへ向けて差し出す。リッコはナナカを真似てレモンを一切れカップの中へ入れると、混ぜたらどうなるの? と言ってスプーンでくるくると茶をかき混ぜた。すると、全体的に淡い紫色になった。バラ色は見れなかったけど、こっちもとてもきれいだ。リッコは満足そうにカップを傾けた。酸味と甘味が強くて、ほんのちょっと渋みがある。渋みのほうはさくさくのプレーンクッキーを食べると気にならなくなる程度だ。
「どっちも美味しい」
「あら、そう? 良かった」
「ねえナナカ」
「なあにリッコ」
「さっきのお砂糖、ホントのホントに、魔法?」
真ん丸くした目でナナカを見つめるリッコ。小首を傾げても瞳は変わらず彼女を注視している。ナナカはリッコの後を追うように首を傾げてから答えた。
「あら、本当よ。どうして? 正確にはお砂糖よりもお茶のほうに魔法がかかってるけど」
「科学じゃないの?」
「あらー……そういうこと。そうね、半分は科学かな」




