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レクチャーを受ける順番はユーリンに一番を譲った。
二番手につけたリッコは、土産だと言って渡された極東語の手引き書を小躍りして受け取ると、資料室にこもって初日を過ごした。
他を飛ばして杖の使い方が書いてあるページへ注目する。すると、利き手と反対の手で杖の中程を持ち、それから上部をつかんだ利き手をもう片方の手にぶつかるまで下へ滑らせるとあった。
「何これややこしい。そんなことオード言ってたかしら」
「あら。聞いてなかった? それとも、言ってなかった? ……か?」
「!」
資料室の入口から、独り言に応えるオード。
ちょっと驚いて、自身の乏しい胸元に手を添えるリッコ。
昼食を共にと誘われて、彼女は開いていた本をぱたんと閉じた。
迷路のようなケイオン棟にあって、資料室から食堂への近道をオードへ教えながら連れ立って歩く。話題は手引き書のことだ。
「実は極東語は、会話より文字起こしのほうが難しくてね。変なところがあったら教えて? くれよな」
「うん。あれってもしかして、全部読んだほうがいいわけ?」
「あら。ちょっと面倒かし……か?」
「薄い本だし、がんばればいけると思う。あのマニュアル、ナナカの力作なんでしょ? 読まなきゃ」
「あら。そう言ってもらえるとうれしいわ。な。ナナカも喜ぶよ」
「……うん?」
いつもよりもしゃべり方がぎこちないオードを見ていると、リッコの脳裏にはナナカが思い出された。頭に『あら』が付くのはナナカの口癖なのだ。




