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「確かに」
「お前も元気付けるために怒らせるなんて一長一短なことしてないで、ムチの次にはアメを出せるようにしておけよ」
「……今は何のことか分かりませんけど。そうだな、そのうち。一緒に飲んでくれますか?」
「そのうちか? たとえば、オードが邪魔に思えた時?」
「ジェスタさぁん!」
そりゃ言っちゃ駄目だぁ!
ハヤタは眉間にシワを寄せて天井をあおぎながら言った。
いつしか飛び跳ねるのをやめて、レクチャーを受ける順番を決め始めていたリッコとユーリンは、突然のハヤタの大声に驚いた様子で身をすくめながら丸い目をした。
「ハヤタどうしたの?」
「ジェスタさんに何か言われた?」
「……い、いや悪い。何でもねえよ」
「「えー?」」
ハヤタは見上げていた視線を下ろしつつ首を左右に振ってあごに自分の手を添えた。
そんな彼を左右から挟むフォーメーションでリッコとユーリンが下から見上げる。二人して首を傾げて、じろじろと怪しむ顔で見つめるが、何でもない。と、もう一度繰り返されると気が済んだようでハヤタを解放した。
「こえーよー、癒しじゃねえよージェスタさぁんー」
解放されたハヤタはジェスタの肩を揉んでまた首を振った。
ジェスタは苦笑してされるにまかせていた。
来週まで残り二日。
提供された西洋語のマニュアルを無理むり読もうとしているユーリンとは違い、リッコは試作品とはいえせっかく手に入った杖を使ってみるほうを優先して中庭に行っている。
教師が来るまでの間、時間はゆっくりと過ぎていく。
待ち遠しいのが半分。残念なのが半分。
リッコはそろそろコートが必要になってきた秋の終わりの寒空を見上げて、遠い中央北に住む魔法使いへと思いを巡らせていた。




